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大坂なおみの成長とサーシャ“卒業”。
成熟度で変化するコーチとの関係性。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2019/03/06 17:30
新コーチ・ジェンキンスのもと、さらなる成長を誓う大坂。今後の飛躍に期待したい。
新コーチはビーナスの元練習相手。
だが、大坂が選んだのは、戦術指導に長けた名参謀でもなければ、強化・育成に長く携わった教育者でもない。ビーナスの妹セリーナ・ウィリアムズの練習相手だったサーシャと似たような経歴を持つ34歳。トップ選手とのかかわりは深いが、コーチとしてはまだこれからという人物だった。
'17年にコーチをつとめたデービッド・テイラーは大坂にとって「先生」だったが、次のサーシャは「友だち」のような存在だったという。今回も大坂は「先生」を選ばなかった。
サーシャは発展途上の大坂をうまく導いた。精神面の未熟さによく付き合い、粘り強く指導した。辛抱強く、洞察力のある、良いコーチだったと思う。大坂もこれによく応えた。
では、なぜ、すれ違ったのか。1月の全豪でサーシャは父親との逸話を持ち出して、テニスについての哲学を披露した。
サーシャも認めていた精神面の成長。
「父が僕をテニスコートに連れて行った(テニスを手ほどきした、の意だろう)のは、自立心を伸ばすためだった。いかに問題に対処するかを学ぶため、だれも助けてくれなくても自分でやることを学ぶためだった」
サーシャはテニスとはそういう競技だと学び、大坂にも指導した。選手をなだめ、励ますサーシャの献身的な態度が話題になったが、実際はコーチに頼らず、自分で問題を解決することが2人の理想だった。
だから、全豪の3回戦と4回戦で、第1セットを落としながら立て直して逆転勝ちした大坂を「彼女は成熟を示した。以前よりはるかによくなった」と褒めたのだ。
「彼女は昨年、多くのことを学んだだろう。あらゆる状況から学ぶことがあったと思う。それが今の彼女につながっている」
サーシャは指導の成果に手応えを感じている様子だった。確かに大坂はサーシャとの1年強で選手としての成熟を重ねた。試合中に起きる問題への対処の仕方を探り、成功体験を得た。そうして2人は理想の師弟関係を築いた。少なくとも、第三者にはそう見えた。