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「山の神」はやっぱりしぶとかった。
今井と神野はなぜ生き残れたか。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byYuki Suenaga

posted2019/03/05 16:30

「山の神」はやっぱりしぶとかった。今井と神野はなぜ生き残れたか。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

悪条件の東京マラソンは、選手それぞれのゴール設定も交錯するレースになった。神野はMGC出場権の獲得に成功した。

トラブルとの付き合いの歴史。

 今井と同じように、神野もきつくなった時に発想を変えられたことが大きい。それが可能になったのも、15カ月間に5本のマラソンをこなしたことが大きいだろう。

 神野とマラソンの関係は、トラブルとの付き合い方の歴史でもある。

 一昨年の福岡国際マラソンでは脚部に大きなダメージを負い、昨年の東京、ベルリン、福岡ではいずれも腹部の差し込みに悩まされた。今回の東京は、プレッシャーも大きかったというが、それでも発想を転換していた。

「差し込みに関しては、いろいろな対策をやってきましたが、どれもうまくいきませんでした。これは対策を取るとかの問題ではないと思って、今回は起きるものだという前提で臨んで、起きたとしても、諦めないで走ろうと、考え方に変化がありました」

40km以降のタイムは全体で2位。

 今回、差し込みは起きなかった。それでも集団からは引き離され、ピンチに陥ったが、これまでのマラソンでの経験値が生かされた。

 最後まで諦めず、落ちてきた選手を拾う。

 神野の40kmからゴールまでのタイムが、その気持ちを証明している。神野の7分06秒というタイムは、優勝したレゲセ(エチオピア)に次ぐものだった。

 最後まで諦めないという言葉は、本物だった。

 今回、粘りは証明することができたが、トップレベルのスピードへの対応力の証明という課題は残る。それでも3月のこの段階でMGCへの出場権を獲得できたのは大きい。

 青山学院大の先輩でもある高木聖也コーチは、

「これで9月のMGCまでじっくり調整できるのがありがたいですね。これまでは2カ月、3カ月単位でレースの準備をしてきたので、万全の準備をしてMGCを迎えたいです」

と話す。夏には、3度目のケニア合宿も強化プランに入っている。

【次ページ】 なぜふたりは生き残ることができたのか。

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