スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「山の神」はやっぱりしぶとかった。
今井と神野はなぜ生き残れたか。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2019/03/05 16:30
悪条件の東京マラソンは、選手それぞれのゴール設定も交錯するレースになった。神野はMGC出場権の獲得に成功した。
MGCの出場権という目標のために。
私は質問で、「この結果で見返すことができたのではありませんか?」と尋ねた。しかし、ここでも今井は冷静だった。
「見返せたとは思っていません。集団から離れてしまい、インパクトのある走りもできていませんから。自分のなかで過去のマラソンを振り返ってみると、結果的に後退していることもたくさんありましたが、その都度課題をクリアして、半歩でも、一歩でも前進できてきたかなと思います。今回、MGCの出場権を獲得できたのは、一歩前進できたと思います」
そして今回のレースからも「学び」があったという。
「自分が学んだのは、離れてからも自分を鼓舞して、前へ前へと、前を見て走れたのは大きいです。9月に行われるMGCは暑いでしょうし、オリンピックも暑いなかで行われるでしょうから、精神的な面で勝てたのは大きかったと思います」
今井正人の我慢強さは、見過ごされがちではあるが、このランナーにとって大きな財産である。
神野の頭を一瞬よぎった「今日もダメかな」。
一方、神野は今井よりも早く、16km付近で1km3分ペースの集団から脱落した。
またも、腹部の差し込みに襲われたか……。ゲームオーバー。そんな言葉さえも浮かんだが、実際には、神野は自分の体と相談しながら自重していたのである。
陣営によれば、15km過ぎからきつくなったのは事実だが、そこで慌てず自分のペースを守ったのだという。レース後、神野はこの時を次のように振り返った。
「15kmくらいでグループから離れてしまい、『今日もダメかな』と一瞬、頭にそんな考えもよぎりましたが、最後まで諦めないというテーマを持っていたので、最後まで走り切ることができたと思います。MGCの出場権を獲得するという最大の目標が達成できたので、本当にうれしく思います」