“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
大宮帰還で湘南仕込みの足を駆使。
石川俊輝に「なあなあ」はない。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/02/27 10:30
走る湘南を経て育成組織時代に所属した大宮へ。石川俊輝としては覚悟を決めてJ1昇格に挑む。
バランスを考えすぎずに。
後半に入ってもプレーの質は落ちなかった。75分には山越のヘッドクリアを拾おうと相手陣内を背にした瞬間、甲府の2選手が激しくプレスをかけた。それを分かっていたのだろう、プレスを回避するファーストタッチでターンして前を向くと、左サイドに展開した。
85分には後ろが足りていると判断した瞬間に、カウンターを仕掛けられるポジションに飛び出していった。茨田の仕掛けこそ相手に奪われたが、ここからが石川の見せ場だった。
右サイドのジュニオール・バホスのクロスがこぼれ、その先にはフリーのMF小椋祥平がいた。小椋がシュートを狙った瞬間、猛ダッシュで戻った石川は足を出してコースを切り、シュートは枠を外れた。
ADVERTISEMENT
タイムアップの笛まで彼の攻守に渡る存在感は色褪せず、かつ両チームの中で一番ミスが少なかった。彼がマンオブザマッチだったと表現した根拠だ。
「僕自身、あえてバランスを考えすぎないようにしました。啓輔がバランスを取ってくれているのに、自分までバランスを取ったら、(チーム全体が)後ろに重たくなってしまったり、攻撃のサポートに行けなくなる。真ん中で停滞してしまうと思ったんです」
湘南での5年間で得た財産。
もし石川がバランスを取りに行っていたら。それは献身的かもしれないが、前への迫力を失ったかもしれない。だからこそ石川は前述したのように、ケアしながらも迷うことなくアグレッシブなプレーを選択していた。そしてリスクを背負ったら、きちんとその責任を負い、攻守が切り替わった瞬間に強度の高いスプリントで危機回避する。
それは、彼が湘南での5年間で得た「財産」である。
「前線で収まる選手がいるから、追い越していく動きも大事ですが、サポートに入ることも大事。でも前に行き過ぎて『お前、どこにいるの?』となったら一番いけない。『やられそうになったら一瞬で戻る』というのはベルマーレで相当鍛えられた。
大学までの僕は、カウンターを仕掛けた時にどうしてもバランスを考えてしまって、前に行ききれなかった。でも、ベルマーレで“相手にとって一番怖いのがボックスに顔を出してくるような選手”と学んだ。どれだけ相手が怖いと思うプレーをできるかが大事だと思う。この意識はベルマーレに行かなかったら絶対に得られなかったもので、僕のベースになっています」