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「あれを見て、プロではやっていかれへんと…」あの星稜・奥川恭伸を倒して日本一…履正社“伝説の主将”にプロを諦めさせた「衝撃の強肩」の持ち主

posted2024/12/26 11:07

 
「あれを見て、プロではやっていかれへんと…」あの星稜・奥川恭伸を倒して日本一…履正社“伝説の主将”にプロを諦めさせた「衝撃の強肩」の持ち主<Number Web> photograph by (L)JIJI PRESS、(R)Hideki Sugiyama

3球団競合の末、ヤクルトに入団した世代No.1投手・奥川恭伸を撃破して日本一に輝いた履正社の主将・野口海音。それでもプロには進まなかったワケは?

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沢井史

沢井史Fumi Sawai

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(L)JIJI PRESS、(R)Hideki Sugiyama

 いまから5年前、2019年の夏の甲子園。現ヤクルトの奥川恭伸を擁する星稜を破って、初の日本一に輝いたのが履正社(大阪)だった。激戦区の大阪で大阪桐蔭と「二強」と呼ばれる超名門だが、意外にも夏の頂点に立ったのはこの時だけだ。そんな“伝説の世代”の主将が今年、ユニフォームを脱いだ。なぜ彼は23歳という若さで、野球から離れることを決断したのか。なぜ、一度もプロ志望届を出さなかったのか――。その胸の内には、様々な葛藤があった。《NumebrWebインタビュー全3回の2回目/つづきを読む》

 2018年の夏、高校野球北大阪大会の準決勝。

 この年、春夏連覇を目指していた大阪桐蔭と履正社の試合は6回まで互いにゼロ行進が続いていた。

 両チームとも3安打ずつ放つも、大阪桐蔭打線は履正社先発の浜内太陽を前に4度の併殺を喫していた。履正社からすれば“してやったり”の展開だった。

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 だが、均衡は7回に破れた。先頭の藤原恭大(現ロッテ)が三塁打を放ち、根尾昂(現中日)、青地斗舞の適時打などで3点を先制。ところがその裏、履正社は1点を返すと、さらに8回裏には西山虎太郎の適時打などで3点を挙げ、試合をひっくり返したのだ。

大阪桐蔭「最強世代」を9回2死まで追い詰め…

 残すは9回の攻撃のみ。履正社は勝利まであと1アウトまでこぎつけた。だが、その最後の1つのアウトが遠かった。8回から再登板した先発の浜内には余力は残っておらず、2死から4連続四球で1点を失った。同点となり、最後は山田健太(現日本生命)の適時打で勝ち越され、4-6で屈した。

 キャッチャーだった野口海音(みのん)は振り返る。

「浜内さんは自分のボーイズ(松原ボーイズ)の1年先輩で、その夏を終わらせてしまったことが本当に悔しかった。最後に勝ちきれなかったことが、もう……。僕は今まで野球の試合で負けても、“クソッ”って思ったことがなかったんです。あの試合は初めて、心の底から“クソッ”ってなりましたね。桐蔭を倒す。履正社に入ったのは、それも目標だったので」

 根尾や柿木蓮の投球に圧倒され、自身も3打数無安打。「とにかく柿木さんのボールが速かった」と脱帽するしかなかった。

【次ページ】 ライバルからの「逆転負け」が生んだ成長

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