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思考すら振り切る「大坂なおみ時代」。
なぜ彼女だけが達成できたのか。
posted2019/01/27 12:30
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
大坂なおみ時代の到来。もう遠慮もためらいもなくそう言っていいだろう。全米オープン優勝からわずか5カ月足らず、南半球唯一のグランドスラムで連続2大会目のメジャー優勝を果たした大坂は、史上26人目の世界ランキング1位となった。
2002年以降、グランドスラムで2大会連続優勝はセリーナ・ウィリアムズ以外に誰も成し遂げていない。そのセリーナでさえ、17歳の全米オープンでのグランドスラム初優勝に続く翌年の全豪オープンは4回戦敗退だった。しかし20歳のときに全仏とウィンブルドンを連覇すると、そのまま全米、全豪も勝って4大会連続優勝。「セリーナ・スラム」と自ら名付けたその偉業を、2014年から2015年にかけて再びやってのけた。
こうして23のグランドスラム優勝を重ねたセリーナの功績は偉大すぎるが、そのセリーナ以外に17年間誰もできなかったことを、なぜ大坂ができたのか。なぜプレッシャーに負けることも、燃え尽きることもなく、成功を重ねることができたのか。そうした疑問を解くには、サーシャ・バイン・コーチのこんな言葉がヒントになるかもしれない。
「人間は成功したときに2つのタイプに分かれると思うんだ。ひとつはやり遂げた満足感にしばらく浸るタイプ、もうひとつは次に目の前にあることに向かってすぐに進み出すタイプ。僕にとって幸いだったのは、なおみが後者のタイプだったことだ」
メジャー優勝直後に、来週の話。
夢にまで見た全米オープン制覇のあと、大坂は次の目標を聞かれて
「来週の東京でいい成績を残すこと」と言った。東レ・パンパシフィック・オープンはツアーの中では格が高いほうだが、予想していたのは「次はナンバーワン」とか「ウィンブルドン優勝」といったビッグな目標。あるいは、膨大な疲労と達成感から、「これからゆっくり考える」とか「しばらくはこの喜びを噛みしめたい」といった答えも想定できた。
記者会見場に小さな笑いが起こったのは、大坂のその返答があまりにも意外だったからだ。
2度目のグランドスラム優勝を手にしても、こう言っている。
「テニスプレーヤーなら誰もがグランドスラムに勝つこととナンバーワンになることが、二つの大きな原動力だと思う。でも私はUSオープンで優勝して、そのあと1位になることはあまり気にしていなかったの。出場する大会で優勝することが、いつも私の一番の目標」