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思考すら振り切る「大坂なおみ時代」。
なぜ彼女だけが達成できたのか。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2019/01/27 12:30
世界ランキング1位となり、表彰式でも「スーパースター」と紹介された。「大坂なおみ時代」が本当に来たのだ。
コーチを救う、大坂の特別性。
そうはいっても出る大会、出る大会全て優勝することなどできないのだが、大坂の場合はこれまでの3つの優勝が『プレミア・マンダトリー』のインディアンウェルズ、そして『グランドスラム』の全米オープンと全豪オープンなのだから、天性の大物としか言いようがない。
しかし、優勝と優勝の間には必ず“谷”もある。それでも大坂がポジティブであろうと努力することに、サーシャは「コーチとして救われる」という。
これまで彼の口から「僕にとって幸いだったのは……」という表現を何度聞いただろう。今大会中にはこんな話もした。
「練習でできるということと、それを試合で使うのはまったく別の話だ。でも彼女はそれをやる勇気がある。しかもかなり成功している。これはコーチとしての僕にはかなりありがたいことだ。やってみても失敗ばかりだと、それを練習している意味を理解させるのが難しいからね」
オフシーズンに取り組んだドロップショットを、何度失敗しても試みる姿は印象的だった。今年はもっと幅広いプレーができる選手になるのだという大きなビジョンが、チームにはある。そのために一丸となって取り組んできたことの象徴だったからだろう。ペトラ・クビトバとの決勝戦でも何度か試したが、ミスするか、あるいは相手のチャンスボールになった。ウィンブルドンで2度の優勝を誇るクビトバのドロップショットが、やけに巧妙に、洗練されて見えたものだ。
しかし、あの緊迫した勝負の中で振り絞った勇気は、長い目で見て大きな収穫をもたらすに違いない。大坂自身にも、チームにも。
新たなものを学習する意欲。
昨年の3月からフィットネス・コーチについているアブドゥル・シラー氏も、大坂をサポートすることを「ありがたい」と語る。セリーナのフィットネス・コーチとして長く手腕を発揮していた彼は、セリーナと大坂の共通点を指摘する。それは“運動神経”と“学習能力”だそうだ。学習能力とは、謙虚さや素直さにもつながるのだろう。
「なおみはとても謙虚に僕たちの意見に耳を傾け、質問もしてくる。もっと強くなるために何をすればいいのか、それを知ることに貪欲で、それを実行することに迷いがない」
そうシラー氏は語っていた。大坂とセリーナは体型も違うし、去年の全米オープンの決勝での事件が浮き彫りにしたようにキャラクターも正反対のように見えるが、プロアスリートとしての資質の類似性をサーシャもアブドゥルも知っている。