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おやじ市民ランナーの挑戦。
「東京マラソンでサブスリー」への道。
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byHiroki Ban
posted2018/12/30 07:30
東京マラソンでのサブスリー達成に向けて、11月に練習を開始したサブ3.5ライター。
ついに自己ベスト3時間9分27秒に!
問題はその先である。サブスリーという称号は、市民ランナーにとっては特別な意味を持つ。『ランナーズ』の集計によれば、主要なマラソン大会の完走者のうち、3時間を切るのは上位3%にすぎない(2017年度・男子)。サブ4の28.5%、サブ3.5の11.8%に比べると、格段に狭き門となる。
ペースで見ても、サブ3.5がキロ4分58秒で達成できるのに対して、サブ3は4分15秒にまで上がる。時速でいえば14.1km。陸上競技経験のない人間にとって、これはとんでもないスピードだ。それを42km続けるとなると、まったくイメージできない。そこをめざして茨の道を進むか、そろそろ数字を追うのはやめてジョガーに戻るか──ランナー人生の岐路に差し掛かっていた。
それでも、ここまで来た以上、挑戦もせずに諦めるのはありえないような気がした。そこで、とりあえず1シーズン、やれるだけのことはやってみようと決めて、みっちりとした練習スケジュールを立てた。
メニューはジョグ中心の練習から、スピード系の練習を増やした。駒沢公園や代々木公園の周回コースで20km、30kmのタイムトライアルを繰り返し、がむしゃらに走った。
当時の練習日誌を見ると、「よくひとりでそこまでやったよ」とあきれるぐらいムキになって走っている。その結果、2013-14年シーズンはレースのたびに自己ベストを更新。最終的に静岡マラソンで3時間9分27秒(ネット3時間8分38秒)を記録した。3時間10分を切った達成感はあったが、どうあがいてもサブ3は無理なのか……というほろ苦さも感じたシーズンだった。
“ランナー版・中年の危機”に!?
そのことで、マラソンに対する気持ちがいちどバーンアウトしてしまったように思う。
タイムに挑戦すること自体はおもしろいのだが、捧げた情熱と時間のぶん、タイムが出なかったときの落胆も激しくなる。「マラソンを完走した!」という喜びが数字によって打ち消されてしまうのだ。人生における中年の危機を迎え、少しでも前向きになろうと思って走っていたはずなのに、いつの間にか“ランナー版・中年の危機”のようなところにはまり込んでいた。面倒なことになっちゃったなあ……と思いながら、微妙な気持ちで春を迎えた。
幸いだったのは、ちょうどその少し前から、ウルトラマラソンやトレイルランニングを始めていたことだった。同じ走るという行為でも、ウルトラやトレイルには旅や冒険といった要素が強い。ひたすらスピードとタイムを求めるフルマラソンとは似て非なるスポーツといってもいいかもしれない。練習や補給、装備のノウハウもまだ固まっておらず、自分なりに試行錯誤しながら探究していくおもしろさもあった。
主戦場をウルトラとトレイルに移すと、気持ちも体もリフレッシュし、走ることがまた楽しくなってきた。その一方で、フルマラソンのタイムはじわじわと落ちていった。そこで再び脳内対話が繰り広げられることになる。
「それでいいのか?」「それでいいんだ。中年ランナーとしては、ここらが引きどきだよ」「いや、少なくとも50歳まではがんばれよ」「う~む……」。
そういうランナー版・中年の危機が続いたあと、「もやもやしているぐらいなら、もういちどフルマラソンをがんばってみよう」と思ったのが昨シーズンだった。