“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
兄の背中を追い、その夢を継ぐ……。
草津東の2年生ストライカー、全国へ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/11/28 17:00
左が兄の渡邉悠斗、右が渡邉颯太。仲の良い兄弟の夢は……これから始まるのだ。
インターハイが高校サッカーの最後。
8月7日。三重県の三重交通Gスポーツの杜鈴鹿の第4グラウンド。滋賀県代表としてインターハイに出場した草津東は、1回戦で高川学園高と戦った。この試合で、兄弟である悠斗と颯太は同じユニフォームを着て同じピッチに立っていた。
DFとして先発出場した兄・悠斗と、後半頭からFWとして投入された弟・颯太。全国の舞台で2人がプレーをした時間は後半の35分間。試合は1-2で敗れた。
この試合が2人にとって、最初で最後の全国大会での兄弟一緒のプレーとなった。
本来ならば、高校サッカー最大のイベントは冬の選手権である。草津東は昨年度の選手権にも出場し、今年のインターハイにも出場しているチームで、しかも夏の段階で2人とも試合に絡んでいる選手。そうなれば、最後の兄弟プレーは選手権となる可能性は大いにあった。
しかし悠斗が下した決断は、インターハイを最後にサッカー部を辞めて、受験勉強に集中することだった。
「僕は4人兄弟の1番上なので」
「選手権は誰もが出たい舞台だと思います。ただ、予選を必ず勝てるとは限りません……。出られるのは1校だけですから。思いを懸けられるような立場に自分はいませんでした。そこが大きいです。
確かに去年の先輩達は選手権に出場したのですが、『受験』という観点からすると、先輩の大学合格状況を見ていたら、サッカーを冬の間も続けた分、その第一志望に行けていないという現実を目の当たりにして……それがずっと頭の中にありました。
それに自分が今後サッカーで上のレベルに行けるかどうかを考えた時に、現実をしっかりと見ないといけない、という考えもありましたので」
苦渋の決断だった。
サッカーと受験を秤にかけた時、サッカーにすべてを懸ける決断は出来なかった。
この決断の裏には、選手権出場にかけるのかという自分自身への「想い」と、家族への「想い」という、ふたつの葛藤があった。
「僕は4人兄弟の一番上なので(颯太が二男、中2の妹、小4の弟)、彼らに見本を見せることも長男の務めだと思っているんです。その1つが、家族の負担を少しでも軽くするための、国立大学への進学です。受験勉強を頑張って、希望の大学に行く姿を見せたいと思っているんです」
そして、ずっと心の中にしまい込んでいた「異変」もこの決断に大きな影響を与えていた。この「異変」には、この物語をもう少し進めてから触れたいと思う。