“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
兄の背中を追い、その夢を継ぐ……。
草津東の2年生ストライカー、全国へ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/11/28 17:00
左が兄の渡邉悠斗、右が渡邉颯太。仲の良い兄弟の夢は……これから始まるのだ。
突然起こった、原因不明の不調。
だが、ここで悠斗の身体に異変が起こっていた。
走りのトレーニングでも試合に出場しても、すぐに息があがってしまう。もともと悠斗は抜群の走力を武器とする選手で、小・中学校時代は長距離走でもずば抜けて速かった。だが高2に上がる頃、途中出場で僅かな時間をプレーしただけなのに、フル出場している時と同じような疲労を感じることがあったという。
当初は「なんて自分は体力が無いんだろう」「練習不足で体力が落ちてしまった」と考え、そのために人一倍走り込みなどに取り組んだが、やはり、どうやってもすぐに息が上がってしまう。その状態を悠斗はすべて「自分の練習不足のせい」として、身体の異変を誰にも伝えること無く、黙々と練習に励んでいた。
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その間、弟・颯太は1年からストライカーとしてレギュラーの座を掴むことになる。
悠斗は2年の夏までBチーム暮らしだった。
兄弟で明暗が分かれる形となったが、悠斗はさらに必死でサッカーに打ち込み、夏過ぎにはようやくAチームに入るところまで成長してみせた。
才能や練習の問題ではなかった原因。
3年ぶりの出場を決めた昨年度の選手権予選でのこと。悠斗は選手権初戦の青森山田戦もベンチ入りこそ果たすが、すべてスタメンとして出場した颯太に対し、自身は1度も出場機会は訪れなかった。
「物凄く悔しい思いでした。それまで僕もFWだったので、『自分もやれるはずなのに、体力がないばかりに……』と本当に悔しかった。
でも、選手権後にシャトルランでビリになって……周りから『明らかにおかしいぞ』と言われたので、試しに病院に行って詳しく検査をしてみたんです。
僕の身体はヘモグロビンの数が通常より少ないという、重度の貧血でした。ただ体力が無かった訳ではなかったんです。
原因が明らかになって、そこから毎日治療と鉄剤を飲み続けたら、徐々に貧血も治って、息も上がらなくなりました。でも、正直もっと早く分かっていたら……と、すごく後悔しましたね」
体調の回復もあり、高3にしてようやく弟や他のチームメイトと同じスタートラインに立てた気がした。ビリだったシャトルランもダントツで1位を獲るほど、体力も驚くほど回復していた。
本来の力を取り戻した悠斗は、インターハイ予選でついにレギュラーの座を掴み獲る。
だが……彼の中では「時、すでに遅し」だった。