“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「本当はFWをやりたかったけど」
ある高校生GKの怪我と敗北と友の涙。
posted2018/11/11 08:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
タイムアップの瞬間、彼は松葉杖を片手にその場に呆然と立ち尽くした――。
第97回全国高校サッカー選手権大会・新潟県予選準決勝・日本文理vs.帝京長岡の一戦で、来季のジェフユナイテッド千葉加入が内定している日本文理のGK相澤ピーターコアミは、ピッチに一度も立つことの無いまま、敗戦の時を迎えた。
「正直、現状が飲み込めなくて……『え、今の入ったの?』という感じでした。それまでずっとウチが押している展開だったので、後半アディショナルタイムのあっと言う間の出来事で、しばらく飲み込めなかった。今も正直……まだ飲み込めていないです。『負ける』ということを考えていなかったので、飲み込めません」
何度も口にする「飲み込めない」というフレーズ。この試合、日本文理は先制と勝ち越しという、2度のリードを許す苦しい展開となったが、74分(40分ハーフ)に右CKからDF本宮信也が執念のヘディングシュートを叩き込み、日本文理が土壇場で同点に追いついた。
そこから試合の流れは一気に日本文理に傾き、さらに猛攻を仕掛け、逆転ゴールの匂いも漂い始めていた。だが、延長戦もちらついてきた後半アディショナルタイム3分に、右スローインから一瞬の隙を突かれ、帝京長岡に痛恨の決勝弾を浴びてしまった。
タイムアップのホイッスルと共に、その場に倒れ込み号泣する仲間達。その姿を相澤はメインスタンド下の日本文理のロッカー前で、ただ立ち尽くして見つめることしかできなかった。
190cmの期待の大型GK登場!
「最後のところで相手の勝負強さに持っていかれてしまった。それが凄く悔しくて……。僕はこうして怪我をして戦線離脱していて、ここで負けてしまったら、僕は今年何も結果を残せないまま終わってしまう……。そういう意味でも全員で全国に行きたかった」
相澤は2018年10月22日、右膝の半月板の手術を行っていた。全治2~3カ月……仮に高校選手権に出られたとしても、プレーできるかどうかは微妙な状況だった。それでも相澤は仲間の勝利を信じていた。
実はこの敗戦の裏側には2つの物語があった――。
1つは相澤自身の物語。
彼が全国的に大きな注目を集めたのは、2017年度の高校選手権だった。初出場を果たした日本文理の2年生守護神は、ガーナ人の父と日本人の母を持つ190cmの大型GKだった。GKを始めたのは2016年の冬、まだ高1の時だった。それまで長身FWとしてプレーしていた相澤に、駒沢隆一監督を始めとした日本文理スタッフが、その長身と身体能力がより生きるGKへの転向を勧めたのだ。