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J1昇格がなくても。町田ゼルビアに
培われた相馬監督の鹿島イズム。
text by
郡司聡Satoshi Gunji
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/20 10:30
川崎フロンターレを経て町田ゼルビアの監督に就任した相馬直樹監督。その手腕は今季のJ2を大いに沸かせた。
誰が出ても“一戦必勝”で。
6位以内を目指すための方法論は、「J1基準のチーム作り」(相馬監督)。チームの始動日から、選手たちにワンプレーごとの質にこだわることを追求し、明確なチームスタイルの下、“誰が出てもクオリティーが落ちないチーム作り”を推し進めてきた。
ただし、チーム全体の骨格は不変だった。全体の陣形を前後左右でコンパクトに保ち、攻守両面で複数の選手がボールに関わり、奪ったボールをスピーディーなショートカウンターにつなげる。
そのプレー水準を引き上げ、コツコツとディテールを積み重ねることで勝利の可能性を高める。そんなチームを相馬監督は作ってきた。指揮官が求める水準に達した選手だけがピッチに立てる。一方で選手たちの立場になれば、明確な基準を満たすために日々のトレーニングに取り組めるのだ。
健全な競争の中で、選手それぞれがチームメートと切磋琢磨しながら、指揮官はチーム力を引き上げるアプローチを続けた。さらにチームマネジメントの観点では、目の前の一戦を勝ち切ることに注力する“一戦必勝”のスタンスを貫いた。
また今季は中島、深津康太らセンターラインの選手が残留した上に、スピードが武器のCBの酒井隆介ら、これまでのチームにはなかった個性ある選手が数多く加入。シーズン開幕前、相馬監督自身も「面白いチームが作れると思っている」と話すほど、今季のチーム編成には自信を持っていた。
相馬監督不在で東京Vに快勝。
こうして迎えた2018シーズン。開幕戦の京都サンガ戦をセットプレーでの2得点で勝ち切ると、そこから8戦無敗を記録。鹿島アントラーズからの期限付き移籍2年目を迎えた平戸太貴が、得意のプレースキックでアシストを量産するなど、セットプレーの得点力とハイプレスからのショートカウンターを軸とした戦い方で勝ち点を積み重ねた。
今季のターニングポイントは、シーズン初黒星から3連敗で迎えた第12節・東京Vとの『東京クラシック』だった。
相馬監督が当日の体調不良でベンチにも入れない緊急事態の中、4-1の快勝を収めた。今季からチーム主将に就任した井上裕大は「監督不在で勝ち切ったことで自信にもなりましたし、よりチームが一丸になれる試合でした。あの試合が分岐点になったと思います」と振り返っている。
運動量が“生命線”である相馬ゼルビアは例年、夏場にチームのバイオリズムが低下するものの、今季は「シーズンを通して波が少なかった」と中島が語る通り、下げ幅を小さくできた。気づけば第30節のFC岐阜戦から第32節の水戸ホーリーホック戦までは一時首位に立つなど、大躍進を遂げたのだ。