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今年、全場所勝ち越しは1人だけ。
逸ノ城の相撲は何が変わったか。
posted2018/11/16 07:00
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph by
Kyodo News
2018年に、幕内で唯一全場所勝ち越している力士がいる。それは誰だろうか。
3横綱は皆休場しているし、3大関もまた怪我の影響で休場している。真っ先に思い付きそうなのは御嶽海だが、大阪場所で負け越している。今場所絶好調の貴景勝も、年明け2場所はまだまだ上位と差がある状態だった。下位から日の出の勢いで昇進している力士も見当たらない。
正解は、逸ノ城である。
初場所は西前頭筆頭で10勝、大阪場所は東小結で9勝、夏場所からは3場所連続で関脇として8勝を挙げている。特に直近の2場所では、序盤に負けが込みながら終盤戦で名古屋場所は4勝1敗、秋場所は5連勝で辛くも勝ち越しを掴み取っているのだ。
追い込まれた状況で勝ち越せるのは、言い換えると逆境に強い力士だということだ。負け越しがかかると、変化をしたり優位でないのに引いたり、自滅して敗れる力士を目の当たりにした方も多いと思う。
相撲というのは面白いもので、その時考えていることがそのまま土俵に出てしまうところがある。調子が良くても、1つ歯車が狂うと流れに呑まれたまま場所を終えることになる。
逸ノ城に、あまり勝負強いイメージは無いかもしれない。だが実際に、強い気持ちを持たなければできないことを彼はやってのけているのだ。では、なぜ逸ノ城と逆境に強いイメージが結びつかないのか。それは、良くいえば安定感、と悪くいえば淡白さが作用している。
横綱大関に勝てない、という傾向。
逸ノ城の淡白さ。それは実際に数字でも現れている。
自分と同格もしくは格下の力士に対しては強さを発揮するのだが、横綱大関に弱いというのが特徴だった。逸ノ城の成績推移を振り返ってみよう。
上位総当たりの番付まで昇進した2014年九州場所から見ていくと、ここから4場所は横綱大関を相手にも勝っている。九州場所は1勝5敗だが、2015年初場所は2勝4敗、大阪場所は4勝2敗、夏場所は2勝3敗だ。ここまでは関脇から前頭筆頭に位置しており、上位に定着していたと言ってもよい。
問題はここからだ。2015年名古屋場所は1勝5敗、秋場所は4戦全敗、九州場所は2勝5敗。2016年初場所は1勝5敗である。番付に目を向けると、秋場所は前頭4枚目、九州場所は筆頭、初場所は3枚目となんとか踏みとどまっていたが、ここから逸ノ城は下位に低迷することになる。