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今年、全場所勝ち越しは1人だけ。
逸ノ城の相撲は何が変わったか。
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2018/11/16 07:00
逸ノ城にかかる期待は大きい。11月場所も勝ち越して、年間全場所勝ち越しを決められるか。
上位陣に対応され、番付を上げきれない。
この頃から相撲内容も新入幕当初の、どんな攻めを受けても残せる逸ノ城の相撲は影を潜めた。出足が遅く、捕まえるのを待つ逸ノ城のスタイルを、横綱大関クラスが攻略しはじめたのである。横綱大関の強さは、相手の攻めに対する研究が早いところにある。上位昇進した力士たちが最初の場所では結果を残せても、定着が難しいのはそういう理由だ。
逸ノ城が待っていても、捕まえさせてもらえない。立合いから自分の形を作られ、後退したところで絶えず動かれるので踏みとどまれないケースが多く見られた。
力士によってやり方はそれぞれだ。張り差しで動きを止める者も居れば、出足で出し抜いて速攻に転じる者もいる。共通しているのは、逸ノ城よりも早く立ち回り、何もさせずに押し切るということである。
逸ノ城の淡白な印象は、この頃にあっさり土俵を割る相撲が目立っていたからだと私は思う。劣勢でも勝つための気概、負けたくないという気持ち、そういう相撲が少なかったからこそもどかしく、厳しい言葉が投げかけられた。
捕まえたら何もさせないスケールの大きな取り口と、無双の怪力に対する期待が大きかっただけに、同じ対策を乗り越えられない工夫の無さに向けられる視線は厳しかった。
番付を落としてしばらく後には、突き放して前に出る相撲を模索した時期もある。積極的なのは良かったが、落ちないバランスを取るのが難しかった、攻めを見られてかわされることが多く、スタイルとして確立するには至らなかった。それでも同格以下の相手にはやはり強く、幕内下位まで番付を落とした3場所のうち2場所で11勝をあげる安定感は健在だった。
出足が格段に速くなった。
そして2017年の後半から、逸ノ城の相撲は進化を遂げる。
立合いで負けることが少なくなったのだ。
出足で劣らないので、崩れない。崩れないので、攻めを許さない。密着できるので捕まえられる。捕まえたらもうこっちのものだ。
前に出ているので相手の攻めをまともに受けず、以前と比べると残せる回数が格段に増えた。立合いに失敗してあっさり土俵を割ることも多々あるが、立ち回っての逆転が増えてきたのは出足の改善によるところが大きい。