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なぜリスグラシューは差し切れたか。
エリザベス女王杯を決した「魔法」。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2018/11/12 11:30
岩田康誠のクロコスミアが逃げ切るかと見えた展開を、モレイラとリスグラシューが一撃でひっくり返した。
何度見てもわからない爆発の理由。
これはつまり、クロコスミアが逃げ切ってもおかしくない流れだった、ということだ。
そんななか、どうしてリスグラシューだけが飛び抜けた末脚を使うことができたのか。
道中は、先頭から7、8馬身離れた中団のやや後ろで、少し掛かっているようにも見える手応えで脚を溜めていた。勝負どころでクロコスミアとの差が6馬身ほどに詰まり、そこからクロコスミアよりコンマ9秒速い脚を使ったのだから、差し切れるわけだ。
出走馬は17頭。逃げたクロコスミアが残りの16頭をスローな流れのなかに押し込めたはずだった。ほかの15頭は術中にハマったのに、リスグラシューだけが、どうしてあそこから弾けたのか、何度リプレイを見てもわからない。
こういう勝ち方をするから、モレイラは「マジックマン」と呼ばれるのだろう。
「子供のころからの夢でした」
道中は、武豊やクリストフ・スミヨン、ライアン・ムーアがよくやるように、長手綱で馬をなだめるのではなく、比較的短い手綱で抱え込むようにして抑えている。スプリントやマイルなら、ああいう形から伸びる馬を見ることはよくあるが、ここは2200mだ。
リスグラシューは、一昨年の阪神ジュベナイルフィリーズ、昨年のエリザベス女王杯、今年のヴィクトリアマイルなどでメンバー最速の末脚を繰り出しているが、それは道中後方に待機してのことだった。それと同等の末脚を、ある程度前に出して行きながら使わせたのは、モレイラの技術にほかならない。
「スムーズに流れに乗り、いいポジションで、手応えよく進められました。4コーナーで上手く外に出すことできて、そこからの反応がよかった。ラスト300mぐらいで勝てると思いました。日本でGIを勝つことは、子供のころからの夢でした。これからも勝てるよう頑張りたい」