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大坂なおみのリズムを崩したもの。
「勝ちたい気持ち」との付き合い方。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2018/10/23 17:00
世界のトップ8人しか出場できないWTAファイナル、大坂なおみにとっても楽な試合は1つもない。
拾うことに集中した相手の戦術。
本来なら得点源となるサーブも不調だった。ファーストサーブの確率は56%、得点率は68%にとどまり、セカンドサーブになるとポイント獲得率は36%に落ち込んだ。ラリーの出だしで優位に立てず、ロングラリーを強いられる場面が増えたが、これはスティーブンスの土俵だ。
試合後、スティーブンスが明かした。
「タフな試合になることは分かっていたから、ポイントが長くなるのを覚悟し、できるだけボールを返すことを意識した。彼女が良いショットを打っても、それを拾い、彼女にもう1本多く打たせることだけを考えた」
その戦術が見事に的中した。プレーの幅が広いスティーブンスは、守るべき場面では守りに徹し、チャンスをみつけると攻撃的なショットで大坂を振り回した。大坂がやろうとしていたプレーを相手にやられた。
日本語で発した「勝ちたい気持ち」。
世界ランキング6位の実力者を相手に、コートサーフェスへの違和感をかかえ、サーブの不調が重なれば、楽な試合にはならない。だが、最もゲームを難しくしたのは、「勝ちたい気持ち」をうまくコントロールできなかったことだろう。
大坂の「力み」が見てとれた。力で押そうとするから、その割にショットの威力は上がらず、グラウンドストロークの精度は落ちてコースが甘くなった。
試合後の記者会見で、ツアー最終戦初出場の緊張が影響したかと聞かれると、「ナーバスになっていたとは思わない」と、その見方を否定したうえで、大坂はそこだけ日本語で、こう続けた。
「勝ちたい気持ち」
思うに任せないプレーにいらだち、叫び、ラケットを投げ、コートにひざをついて悔しがるシーンさえあった。「ため込むより、外に出してしまったほうがいい」という本人の判断だった。こぶしを握り、太ももを叩き、自分を励ます肯定的なボディランゲージがそれに交じった。
しかし、強すぎる「勝ちたい気持ち」が体をしばったのか、全米で見せたのびのびとした無心のプレー、自動化された動きは最後まで見ることができなかった。