テニスPRESSBACK NUMBER
大坂なおみのリズムを崩したもの。
「勝ちたい気持ち」との付き合い方。
posted2018/10/23 17:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Hiromasa Mano
大坂なおみが何らかの違和感を抱えているのは明らかだった。
第1セット冒頭のサービスゲームを落とし、すぐにブレークバックしたものの、優勝した全米オープンや準優勝の東レ・パンパシフィック・オープンで見せた勢いがない。このセットはブレークが相次ぐ展開となり、3度ブレークを許した大坂はセットを失った。
選手はよく「リズム」という言葉を使う。自分の得意な形でラリーを行い、ポイントを取り、ゲームを取って、という積み上げがリズムを生むのだが、この試合の大坂はアンフォーストエラーでみずからリズムを断ち切った。
攻守にバランスのとれたスローン・スティーブンスは、守備の局面でも簡単にあきらめず、しつこく返してくる。そのうちに、大坂にミスが出た。焦りがあったのか、無謀な攻めでポイントを失う場面も多かった。フラストレーションだけが溜まる展開だった。
それでも精神的に持ちこたえて第2セットを奪い返したのは、試合後に明かしたように「勝ちたい気持ち」が強かったからだろう。そして、この状態でもセットを取れるのが今の大坂の実力なのだ。
しかし、第3セットはスティーブンスが攻守のバランスを取り戻す。一度立ち上がったリズムが、また乱れはじめた。このセットは「堅実にやることだけ考えた」と大坂は言う。ところが、第1セットのように状況判断の誤りがミスにつながる場面が多く、スティーブンスの堅実さには遠く及ばなかった。
速いサーフェスに適応しきれず。
試合を通じて大坂を悩ませたのが、球足が速く、バウンドの低いコートサーフェスだった。
サーフェスの特徴を考え、強打一辺倒ではなく、相手の時間を奪う「速攻」を取り入れて相手を左右に振る――これが大坂陣営のねらいだった。サーシャ・バインコーチは、試合の前日、日本の報道陣にこう話した。
「勝つために必要なのは、チャンスがあればボールのコースを変えて相手を走らせることだ。すると、芝コートと同じで追いつくのは難しく、元のポジションに戻るのも容易ではない」
しかし実際には、速いサーフェスに適応しきれず、リスクの高いダウン・ザ・ラインを無理にねらって失敗した。
「タイミングが合わなかった。ベースラインからすごく下がってプレーしなくてはならなかった。それは私のプレースタイルじゃない」
大坂の違和感はゲームセットの瞬間まで消えなかったようだ。