プロ野球亭日乗BACK NUMBER
絶妙な高橋采配で巨人がヤクルト撃破!
第1ステージ突破を導いたある盗塁。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2018/10/15 12:50
CSファイナルステージでは“タナキクマル”の1人である実兄・田中広輔との対戦も楽しみな田中俊太。繋げるバッティングで4歳上の兄を追う!
走塁を担当する井端コーチの策は?
そして1回だった。
1死から2番の田中俊太内野手が四球で出塁すると、3番のケーシー・マギー内野手の初球にいきなり二盗を決めた。
「初球に走ったのには根拠があったし、意味もあったと思います」
こう語るのは一塁コーチャーを務める井端弘和内野守備走塁コーチだった。
「小川は初球のクイックが甘いですし、マギーの初球に変化球で入ってくる確率が高い。何よりまず走ることで小川に自由に投げさせないでリズムを崩すことが目的だった。広島が小川を崩しているのはその辺にあるのかなというのがあった」
最大の目的は「走るかも」という圧力。
小川が先発した7月31日のヤクルト対広島戦。初回に安打を放った広島の菊池涼介内野手がいきなり三盗を決めて広島が先制点を奪った場面があった。もともと小川は威力のある真っ直ぐとフォーク、スライダーを軸に力で打者を制圧するタイプの投手で、力勝負を挑む打者が多い巨人はだからこの右腕を苦手にしてきた傾向がある。
ただ、その一方でもともと制球力はそれほどよくない上に、小川の弱点の1つにクイックになるとさらにストライクとボールがはっきりするというデータがある。そのことを一番、分かっているのが実は小川自身なのではないだろうか。
だから広島が走ったのはこの1度だけだったが、最大の目的は走るかもしれないというプレッシャーをかけることで、小川のリズムを崩すことだった。
実際にこの巨人との試合でも3回に再び田中が左前安打で出塁すると、今度は小川が神経質に再三の牽制を行ったように、走者を気にするようになっている。当然クイックへの意識も強くなり、より早く投げようとする。そうして走者を気にさせることで、走者がいないときでも微妙に投球リズムが崩れてくる。
要はこれまで連戦連敗してきた小川を攻略するために、どれだけいつもとは違うピッチングをさせるのか。そのためにいきなり仕掛けたのが、田中の二盗だったと井端コーチは指摘するのである。