スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
アメリカ人はなんでも15秒で話す。
懐の深さと反知性主義が同居する国。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by2018 Regents of the University of Michigan
posted2018/07/23 08:00
大学生の選手がまとうユニフォームには、スポンサー企業のロゴがちりばめられている。それもまたアメリカスポーツの真実だ。
日大とミシガン大の学長の言葉格差。
昨年、日本でも翻訳本が出版されたJ・D・ヴァンスの『ヒルビリー・エレジー』(光文社)は、発展から取り残された中西部のトランプ支持層の現実をあぶり出した傑作だが(なぜ人々が「反知性主義」に走るのか、かつての民主党支持者が、なぜ共和党支持へと転向したのかが手に取るように分かる)、『ザ・ビッグハウス』と『ヒルビリー・エレジー』は、現代のアメリカを描き出すという点で、太い線で結ばれている。
この映画はトランピズムの影を描きつつ、その一方でアメリカの「良心」を見せる。映画の終わり、ミシガン大の学長が卒業生、寄付者を前に、「みなさんのおかげで学生たちは学ぶことが出来ています」といった趣旨の素晴らしいスピーチを披露する。
私が映画を見た時期は、ちょうど日本大学のアメリカンフットボール部の問題が取りざたされていた頃で、理事長やら総長やら、学長らの「威厳」が問題になっていた。
そんな時にミシガン大の学長のスピーチを聞いたものだから、彼我の「言語格差」に絶望的な思いがしたほどだ。
想田監督も、このシーンを撮影しながら「ラストシーンになるかもしれない」と直感したという。
「大学と経済、大学と社会、あるいは人間とスポーツ、国家とスポーツといったテーマが収斂していくような感覚がありました。面白かったのは、一緒に撮影していたアメリカ人が、スピーチを聞いた直後は『さほど目新しいと思わなかったけど』と言っていたことです。アメリカでは、上手な、パターン化されたスピーチを聞くのに慣れてしまっている面があるんです」
アメリカ人はなんでも15秒で話す。
私は、学長のメッセージ、話し方、そして大学のロゴが入ったウェアを着ているところに、いちいち感心したほどだ。すべてが、行き届いているスピーチだ。想田監督はいう。
「アメリカは、プレゼン能力が問われる文化なんです。あらゆることが見せるために、作られていく。10代の子どもですら、人の目を意識した演出をしますし、どんなことでも15秒でまとめて話す能力が磨かれているんです」
想田監督がアメリカに住み、ドキュメンタリーを作り始めたときにぶち当たったのが、この「15秒」の壁だった。
「なんでも15秒でまとめられちゃうから、インタビューに深みがないんです(笑)。アメリカでは、ニュース番組などで簡潔に引用される言葉を“sound bite”というんですが、その壁を破って、“生”の声をどう引き出すかが難しかったですね」