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ウィンブルドン4強は30歳超のみ。
30代の男盛りで選手はなぜ伸びる?
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2018/07/17 17:50
強かったジョコビッチが遂に帰ってきた。こんなにも柔らかい表情を彼が見せたのは初めてではないだろうか。
常勝を誇ったジョコビッチの凋落。
身長203センチの巨人の歩みは遅かった。歩幅の小さい一歩を重ね、11度目のウィンブルドンで初めて決勝の舞台に立った。そこに立つためには、32歳58日の年月とグランドスラム41大会の経験、さらに6時間36分の準決勝を乗り越える胆力が必要だった。
十分すぎるほどの実績を残しているジョコビッチの場合はまた別の話だ。
常勝を誇ったジョコビッチだが、ウィンブルドンの決勝を戦うのは、優勝した'15年以来3年ぶりだった。
優勝インタビューではこう話している。
「(カムバックの)過程を信じること、自分を信じることが必要だった。大きなケガをしてしまい、このレベルに戻ってこられるのか、疑う日々だった」
栄光を味わった選手だけに、ここ数年間の不振はこたえたはずだ。右ひじの故障と手術、そしてそれ以上にジョコビッチを悩ませたのは、負けるたびに頭をもたげてくる迷いや不安、苛立ちだった。
昨年の5月、長年の盟友だったマリアン・バイダコーチとの関係が終わった。このこと自体、ジョコビッチの迷いがどうにも処理できない段階まで達していたことを示している。アンドレ・アガシらをコーチに招いたが、事態は大きく変わらず、迷いはさらに深くなる。
「僕も1人の人間だよ」
ジョコビッチがその日々を振り返った。
「疑いとフラストレーション、失望の時間だった。この道を行くべきか、ほかの道に進むべきなのか、答えが出ない」
迷っていた頃の自分を反面教師にしたのか、今大会のジョコビッチのプレーは確信に満ちていた。この4月に陣営に呼び戻したバイダコーチとの信頼がこの確信をもたらしたとみていい。
チームを信じること、自分を信じることでジョコビッチは苦境を乗り越えた。
「あの日々が、優勝までの道のりを特別なものにした。精神面での乱気流のような、疑いと失望とイライラと怒りの日々を乗り越えられたのは、ありがたいことだと思っている。ここにいるみんなと同じで、僕も1人の人間だよ。我々は皆、そういう困難を乗り越えなくてはならないんだ。それが学習曲線だ。テニス選手としてだけでなく、1人の人間として、僕は自分を深く知ることができてよかったと思っている。困難は自分を知るきっかけになる。自分を蘇らせ、進化させる」