スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
日本の現実主義とエムバペの快楽。
職人技も超能力もサッカーの養分だ。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byKazuo Fukuchi/JMPA
posted2018/07/06 16:30
こぼれ球を拾って突破するエムバペ。アルゼンチンの歴戦の勇士たちも置いていかれるスピードだった。
あの突破劇を見られただけでも満足。
前半10分、自陣ボックスのやや外側でこぼれ球を拾ったエムバペは、大股で前に進みはじめた。その速度が桁外れだ。老練のハビエル・マスチェラーノやエベル・バネガらが追いすがろうとするが、まったく届かない。
相手3人を引き連れたまま、エムバペは敵陣に侵入し、前に立ちはだかったマルコス・ロホもかわした。ロホは必死で追走し、なんとか止めようとする。だが、伸ばした手がエムバペの背に届いたときは、すでにボックスのなかだった。
エムバペとロホは、もつれるように転倒した。主審は、迷わずPKのスポットを指差す。キッカーはアントワン・グリーズマン。ボールはネットの真ん中を揺らし、フランスは貴重な先制点を獲得した。
この突破劇を見られただけでも、私は十分に満足している。ワールドカップの決勝トーナメントで1試合に2点以上を取った史上最年少の選手は、もちろんあのペレだ('58年のスウェーデン大会)。当時17歳だったペレは、準決勝の対フランス戦でハットトリックを記録した(準々決勝で1点、決勝でも2点。合計6点の大活躍だった)が、19歳のエムバペはペレに次いで史上2番目に若い。
そんなエムバペが、このあとにつづく決勝トーナメントで、どれだけ得点を積み重ねていくか。強敵は数多いが、私はできるだけ長く、彼の活躍を見ていたい。