“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
酒井宏樹が右SBを天職にした理由。
縦の信頼関係と謙虚さ、獰猛さ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/07/02 18:00
柏の下部組織時代からサイドバックとして育成された酒井宏樹。ベルギー戦ではマッチアップが予想されるアザールを止められるか。
「SBは僕の性格にも合っている」
「宏樹は日本にはなかなかいないタイプのサイドバックになる。サイズもあって、俊敏性もいいし、キックの質が高くて、しっかりと守れる。どうしてもこういうサイズだとCBに置きたがるけど、彼はサイドバックでこそ力を発揮するはず。スケールの大きなサイドバックとして成長してほしい」
酒井が高3のとき、吉田はこう彼のポテンシャルを評価していた。そして、酒井自身もまた吉田の想いを汲み取って、自らの成長に繋げようとしていた。
「僕には何ができて、何ができないかは分かっています。周りには自分よりうまい選手がいっぱいいる中で、僕はそこで目立つのではなく、支えるプレーを増やしていこうと思っています。なので、サイドバックというポジションは僕の性格にも合っていますし、やり甲斐を感じています」
今と変わらぬ穏やかな口調でこう語っていた彼は、可能性を見出してくれた吉田とサイドバックというポジションに感謝するかのように、以後も黙々と自己研鑽に努め続けた。
ハノーファーで不遇だった時の話。
柏のユースから着実にステップアップし続け、やがてトップ昇格し、ついにプロ3年目でレギュラーに定着。4年目の2012年に日本代表デビューを果たすと、その勢いのままに7月にドイツ・ブンデスリーガのハノーファーに移籍した。ここでほぼ4年を過ごし、その間にブラジルW杯メンバーにも選出される。ブラジルの地では出場こそなかったが、そのキャリアは着実に積み上がっていった。
当然その間にはうまく行かない時期もあった。
ハノーファーで出番を失った時期、ドイツまで取材に行った時のことだ。取材に行った試合ではベンチ外――逆境にあっても、酒井宏は真摯に取材に対応し、物腰柔らかな声でこう語っていた。
「(ベンチ外のような)今の状況は自分的にはよく通ってきた道なんです。もちろん、これに慣れてしまうのはいけないことだということは分かっているし、ベンチやスタンドから試合を観ることで学ぶこともある。
大事なのは、自分がピッチに立った時に何ができるかを常に考え続けること。しかもその時に、今まで通りやってきたプレーをそのまま継続していくのではなく、そのさらに上のプレーをすること。“本当にできるかな?”と思いながらやるのではなく“できるんだ!”と思いながらやっていかないといけない」
まさに、これまでの彼のサッカー人生を表すような、強靭な信念を感じさせる言葉だった。