フランス・フットボール通信BACK NUMBER
イニエスタ「パスこそが最善の方法」
シャビらが語るその本当の特別さ。
text by
パトリック・ウルビニPatrick Urbini
photograph byFlorent Torchut
posted2018/06/25 07:00
イニエスタの故郷、人口2000人ほどのフエンテアルビージャ村。広場には、2010年のW杯決勝で伝説のゴールを決めたヒーローの銅像が立つ。
それぞれの行為には常に意志が込められている。
さまざまなフェイントとボディアクション、ドリブルと加速の能力がひとつの理想像を作りあげているが、彼を語るうえではどうしても出発点でもある本質的な部分に触れざるを得ない。
バルサの伝説的なフィジカルトレーナーであり、方法論のエキスパートでもあるパコ・セイルーロは次のように語っている。
「彼のすべての動作にはひとつの意味と方向性がある。それぞれの行為には常に意志が込められている。それこそがプレーに求められるものだ」
バルサを去るにあたり、シャビが残したのは、こんな本音の言葉だった。
「彼(イニエスタ)とは視線を交わすだけで十分だった。彼が何を求めているのか即座に理解できた。
どんな状況でも彼は常に解決策を見い出したし、ボールを要求した。どんな場面でも隠れることなくプレーに影響を与え続けたんだ。
違いを作り出せるのは、彼がプレーを理解しそれぞれの瞬間に何をすべきかを分かっているからだ。加速すべきか、それとも遅らせるべきか。1対1を仕掛けるときか、パスを選ぶべきなのか……」
いいプレーとは、何よりもミスを犯さないこと。
ただしパスといっても、イニエスタにとっては、どんなパスでもいいわけではないという。
数的優位を作り出すためのパス、相手守備陣形のバランスを崩すためのパス、味方のブロックを前進させてプレーに流動性を生み出すためのパス……。
「どうして僕がそんなにボールをキープしたがるのかって? それはボールがあれば(守備の)苦労が減るからさ」(イニエスタ)
イニエスタにとってポゼッションこそは最良の守備であり、ゲームをコントロールする方法であった。
「いいプレーとは、まず何よりもミスを犯さないことだ」と彼は語っている。
「簡単なパスをミスすることなく試合を終えた後は、満ち足りた気持ちで家に帰ることができる」
だがそれはまた、相手の守備ラインを引き裂き、チームメイトに得点のチャンスを与えるパスでもある。