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W杯初戦2発でイングランド国宝に!?
ケインは家族とファンに優しい男。
posted2018/06/24 09:00
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
6月18日、イングランドはチュニジアを相手にW杯ロシア大会の初戦を勝利で飾った。普段は冷静なガレス・サウスゲイト監督が、右手を天に突き上げながら歓喜の跳躍で決勝ゴールを祝えば、開幕前は静観ムードだった国民も一気に湧き返った。
中継局であるBBCにチャンネルを合わせた人々の数は、前月のロイヤルウェディングを500万人上回る、約1830万人。ロンドン市内に設けられたファンゾーンでは、興奮の余り、よじ登ったプラダン屋根を突き破って落下するファン(なお無事は確認)まで現れた。
対戦相手のチュニジアは、試合前のFIFAランクこそ1つ下の14位だったが、いわゆる強敵とは呼べない。しかし、スコアは僅差の2-1。その前々日、アルゼンチンと引き分けても過剰には喜ばなかったアイスランドの様子に感心した筆者は、イングランド人は喜び過ぎとも思えた。
巷で「国宝級」と言われるまで大絶賛。
とはいえ、母国民にすれば2006年以来のW杯白星スタートだ。
今大会への期待値は過去最低と言われており、同点のまま90分が経過した時点では、主力の若返りがさらに進み、スタイルが攻撃的になっても相変わらず勝てないのか……という落胆がファンの心中にあっただろう。
それが、エースにしてキャプテンのハリー・ケインによる後半アディショナルタイムのゴールで劇的勝利を飾ったのだから、興奮を抑えられない気持ちは理解できる。
前半早々に先制点も決めたケインの存在価値は、巷で「国宝級」と言われるまでに高まっている。単なる「代表のキーマン」からの急上昇。イングランドの人々は過去の苦い記憶から「浮かれてはいけない」と言い聞かせている節はある。しかし開幕前から「得点王ならあり得る」と踏んでいた9番に対して、さらなる期待と称賛を送っている。
W杯での1試合2得点は、'86年メキシコ大会で得点王となったガリー・リネカーが、4年後の'90年イタリア大会で記録して以来の出来事だ。