球道雑記BACK NUMBER
エースになったら景色も変わる。
ロッテ2年目・酒居知史の場合は?
posted2018/04/01 07:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Kyodo News
「社会人(大阪ガス)時代に投げていなかった球があるんですけど、それをちょっと試してみようと思って」
千葉ロッテ・酒居知史がそんな話をしたのは2016年冬。新入団会見が終わってすぐに開かれた各マスコミ対応の席だった。
彼が話すその球とは、シュート変化をしながらわずかに沈むツーシームのこと。ブルペン練習で指のかけ方、かける位置を色々と試すうちに習得し、自身でもちょっぴり手応えを感じていたボールだった。
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「春季キャンプのバッピー(バッティングピッチャー)でもなんでもいいので、プロのバッターがどんな反応をするのか投げてみたいというのはあります」
そう言って酒居は不敵な笑みを浮かべた。しかし、そのボールが昨年の公式戦で彼の腕から放たれることはなかった。それには理由がある。
フォーシームを磨いた方が良いのと違うか?
2017年の石垣島春季キャンプ中盤での話だ。
当時、解説者として酒居のブルペンを観察していた清水直行が、練習後、酒居に声をかけた。
「球種をいっぱい増やしてストレート(フォーシーム)が疎かになるより、ストレートあっての変化球なんだから、もっとストレートを磨いた方が良いのと違うか」
酒居のフォーシームが本人の意図と関係なく、ややシュート回転することを清水は一瞬で見抜いていた。この言葉をきっかけに、酒居はツーシームを一時封印した。
「清水さんに言ってもらったこともあって、昨年はフォーシームをもっと磨いていこうと思ったんです。だから今も、シンプルな変化球しか放っていないです」
オープン戦中盤で開幕二軍スタートが決定し、しばらくファームでの生活が続いた。しかし酒居は、その期間を利用してストレートの質を高めようと考えた。
二軍戦ではボールが垂れようが、抜けようがフォーシーム中心のピッチングを心がけた。焦って一軍を目指すのではなく、シーズン終盤での活躍、ひいては長くプロの世界で活躍する自身の姿をイメージした。
チャンスは早くめぐってきた。4月25日の一軍デビュー戦(対東北楽天)では最速150kmのストレートを披露して強いインパクトを与えた。
さらに一軍再昇格後の8月には先発ローテーションに定着して9試合に先発すると、2完投を含む5勝1敗。清水の言葉が、結果として1年目の酒居を活躍に導いた。