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スアレスに殴られ蹴られて成長した男。
湘南スタイルの肝はアンドレ・バイア。

posted2018/03/27 11:00

 
スアレスに殴られ蹴られて成長した男。湘南スタイルの肝はアンドレ・バイア。<Number Web> photograph by J.LEAGUE PHOTOS

湘南に所属して4年目。最終ラインを司るバイアは不可欠の存在だ。

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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 シーズン序盤のJリーグ観戦を、私は“お試し期間”と位置づけている。多くのチームをひと通り見て、1年間見守りたくなるチームや選手を見つけるのだ。目に留まるチーム、選手が多いほど、シーズンは充実したものになる。

 今季は昇格組のひとつ、湘南ベルマーレに目をつけた。

 昇格組の多くにとってシーズン最大の目標は残留、生き残ることだ。必然的に手堅い試合運びになるが、チョウ・キジェ監督率いるチームは違う。最終ラインを大胆に押し上げた野心的なスタイルで、J1に挑んでいる。

 湘南というと走力を前面に押し出した、カウンターの印象が強い。ボール保持者を追い抜いて、味方が次々と前線に駆け上がるシーンにスタジアムが沸く。

 だが、今季は走力や運動量だけではない。プレッシャーをかけられた中でも最後尾からつなぎにつないで敵の背後を取っていく、新機軸を打ち出している。

川崎、名古屋を抑えるブラジル人DF。

 J2と違って、ひとつのミスが命取りになるJ1でも安全策に走らず、それどころかさらに大胆に勝負する。この積極性が湘南の精神。川崎フロンターレ、名古屋グランパスという強豪との対戦でも、彼らは手に汗にぎる勝負を繰り広げ、どちらも引き分けに持ち込んだ。

 この2試合を見て、「これは……」と唸らされた選手がいる。

 アンドレ・バイア、34歳。3バックの中央を引き締めるブラジル人。湘南がリスクを負った試合運びをできるのも、最後尾にこの男がいるから。そういっても決して過言ではない。

 ラインを押し上げ、背後の広大なスペースをGK秋元陽太とともにカバーし、敵の圧力を受けながらも確実なタッチでボールを前に運び出す。1対1にも滅法強い。

 技術と連係に優れる川崎と名古屋は、言葉は悪いが“スリ”のようにゴールを陥れようとする。四方八方から手を伸ばして敵の注意をそらし、不意に財布を抜き取ろうとするのだ。

 ペナルティエリアはポケット、ゴールは財布。サッカーは懐中を巡る攻防のようなものだ。

【次ページ】 勝負手を払いのける判断力、胆力。

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