草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
なぜ人々は松坂大輔を見に行くのか。
別格の“引力”には理由がある。
posted2018/02/16 11:45
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph by
Kyodo News
すごい投手は松坂大輔以外にもいるだろう。よく「10年に1人の逸材」などと言われるが、ダルビッシュ有(カブス)が1986年生まれ、田中将大(ヤンキース)は'88年、大谷翔平(エンゼルス)が'94年。そして彼らの先を歩いていたのが'80年生まれの松坂だ。
「すごい投手」の基準はそれぞれだが、この4人を外す人はいないと思う。つまり松坂から大谷まで15年で4人の「10年に1人」が野球界に現れていることになる。
でも、逸材の出現頻度が高まったのは、明らかに「松坂以降」だ。
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この4人は中学時代から頭角を現し、高校からドラフト1位で入団。その後も抜かれることなく常に同世代のトップを走ってきた。早熟にして大器。日の当たる道だけを歩いてきた。
若くして多彩な変化球を駆使できるのは、自分より先にいる先輩の映像を見て模倣できる時代だったことも理由の1つだろう。
昔のスポーツ界は芸術界のように天才の出現を待たねばならなかったが、現在は少し違う。もちろん才能があることは大前提だが、トレーニング理論や技術論が確立され、先人の背を追いやすくなっているのは間違いない。学問のようにある程度までは誰かが踏みならした道を歩き、そこから先を自分が切り開いて後に託す。高校野球で150kmを計測する投手が珍しくなくなったのはその良い例だ。
「ウチの大輔は元気にやっているの?」
松坂の存在感は別格だ。松坂の投球は人の心を打つ。
沖縄県北谷町。アクセスが良く観光名所もある割にはのどかだったキャンプの風景が、今季は一変した。報道陣は5割増し、急きょ作った松坂グッズは即日完売し、松坂も可能な限りサインに応じている。ブルペンに入ればわずかなすき間から投球フォームを見ようとし、サービスも兼ねてランチタイムに特打をやれば柵越えに拍手喝采を送る。
そんなフィーバーはあらゆるメディアで伝えられている通りだ。筆者の周囲にも「松坂を見てきます」と初めてのキャンプツアーに出掛けた人がいるし、「ウチの大輔は元気にやっているの?」と身内のように気をもむ人もいる。もちろん、ダルビッシュや田中、大谷がキャリアの最後に中日を選んだとしてもファンは殺到することだろう。だけどファンそれぞれの「温度」や「思い入れ」は果たして同じだろうか。