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則本昂大と“ヨシさん”と開幕投手。
5年前の日本一を思い出す短い会話。
posted2018/02/17 09:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
自身2年ぶり5度目となる開幕投手に内定しても、楽天の則本昂大は冷静だった。
「与えられたところでしっかりと結果を出すだけなんで。投げる場所がはっきりした。これからコーチとかと相談しながら計画的に調整できるんで、やりやすくはなりました」
第2クール初日の2月6日。則本は開幕投手を告げられた。
12球団では、西武の菊池雄星に次ぐ2番目の早さである。このタイミングについて、梨田昌孝監督は「あんまり長引くと報道陣に聞かれるし、夜も眠れないくらいでした」とジョークを飛ばしていたが、昨年15勝などの実績、自主トレでの調整、第1クールでの仕上がり。総合的な見地から判断され、則本は開幕投手の座をつかみ取った。
マスコミ受けという解釈では、何も早いタイミングでの発表だけが売りではない。そこには、梨田監督の粋な演出もあった。
本来、この大役を任命するのは監督の役割であるが、梨田は監督人生で初めて、それを4年ぶりに楽天の投手コーチに復帰した佐藤義則に託した。指揮官が狙いを説明する。
「『監督が言うべき』と言われるかもしれないけど、ルーキーイヤーで15勝したとき佐藤コーチで、監督が星野(仙一)副会長。その年に日本一になったこともありますし、絆という意味でもコーチから伝えてもらったほうが想いは伝わるんじゃないか、と」
「開幕投手だから」「わかりました」
その深謀とは裏腹に、則本が開幕投手を告げられた瞬間は淡々と、会社で事務連絡を交わす上司と部下のやり取りのようだった。
6日の練習中、キャッチボールが始まる直前に、則本のもとに佐藤コーチが近づく。
「お前、開幕投手だから」
「わかりました」
たったこれだけである。佐藤コーチは則本を開幕投手に決めたことについて「みんなが思っているほど大したことじゃない。これまで楽天で頑張ってきたんだから。ピッチャーの柱として頑張ってほしいね」と、必要最低限の言葉に留めていた。しかし、梨田監督が託した「2013年の絆」の話題になると、当時を懐かしむように則本への想いが溢れる。