One story of the fieldBACK NUMBER
稲葉ジャパンが作った「右足の掟」。
いつもより1歩リードを広げた理由。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2017/11/21 11:30
優勝を決めて、ナインを出迎える稲葉監督。大会前に「まず勝利が大事」と語っていた通り、見事に代表監督の初陣を飾った。
パワー全盛の時代に、日本が切った舵は……。
監督として初采配となった稲葉が「金メダル」という言葉と同等か、それ以上に何度も口にしたフレーズがある。
「スピード&パワー」
ベースボールはパワー全盛の時代だ。WBCで2大会連続の準決勝敗退に終わっている侍ジャパンの壁もそこにある。
例えば、決勝の相手・韓国もすでにこれまでと違う方向へ歩み出している兆候が見られた。あの盗塁王・李鐘範の息子で、俊足の2番打者・李政厚(イ・ジョンフ)でさえリードはアンツーカー内にとどまっていた。つまり今季3盗塁の近藤よりも狭かったのだ。それを見ていた井端は言った。
「韓国も昔はこっち(日本)よりの野球だったけど、だいぶアメリカ寄りになっているのかな。パワー重視というか……」
どちらが正解かはわからない。ただ、稲葉ジャパンは最大の長所である「スピード」を捨てることなく、チームの掟とした。少なくとも、この試合においてはその差が出たように映った。
「それが日本代表のチームカラーの1つだと思います」
一塁上からこっそりと快勝を演出した松本が、ドームを去り際に言った。
「日本ハムでも僕の役目は塁に出て、投手に重圧をかけることですが、このチームは特に走れる選手が多い。それが日本代表のチームカラーの1つだと思います」
松本が次もジャパンのユニホームに袖を通せるかはわからない。ただ、もしそうなった場合、すでに首脳陣とも仲間とも共有する代表のスタンダードが叩き込まれているのである。
いくらメンバーが変わっても変わらないもの。
2020年東京まで携えて行くもの。
その1つがアンツーカーから飛び出した侍たちの右足だった。
そういうものが見えたと考えれば、この大会の意義も小さくないのではないだろうか。