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“引退宣言”を越えた“生前葬”!
アントニオ猪木はどう死ぬべきか。
posted2017/10/25 11:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
今年74歳になったアントニオ猪木が、10月21日に東京・両国国技館で「生前葬」を行った。
「INOKI ISM.2~アントニオ猪木『生前葬』」と銘打ったこのイベント、鈴川真一、ヂエゴ安楽、桜井隆多ら現役選手たちが試合を行い、メインイベントはあのスコット・ノートン(56歳)とピーター・アーツ(46歳)の時間無制限一本勝負(逆エビ固めでアーツ敗北)だった。
試合がすべて終わった後、リング上に置かれた白い棺を、スタン・ハンセン、藤原喜明、藤波辰爾が見つめていた。
だが、棺の中に猪木はいなかった。猪木は『千の風になって』の替え歌を、「オレはそこにいません」とアカペラで歌いながら登場。リングインして棺に近づくとやおらそのフタを叩き割り、中から心臓とも魂ともとれる赤く光る球を取り出して、高々と掲げてみせる。
会場のそこかしこからは「猪木ありがとー!」と多くの歓声が上がっていた……。
「そろそろ死ぬところを撮ってもらおうかな」
昔、アントニオ猪木と「死」についてとりとめのない話をしたことがある。
「死に場所を探している」というようなニュアンスで、ある日、彼の方から切り出してきた。引退した後だが、もうずいぶん前のことだ。
「そろそろ死ぬところを撮ってもらおうかな」とも言われた。冗談かと思ってその顔を見直すと、真顔だった。
その時、リアルな感触を持って――カメラマンである私はどんな形で「猪木の死」に直面するのだろうか、と想像していた。
猪木のデスマスク。
それが世間的にも想像通りのものなのか、はたまた想像を超えたものなのかはわからなかった。だがその時、私は本気でデスマスクを撮る気になっていた。
一方で、どんなことがあろうと猪木が眠るのは「四角いリングの上」でなければ、という思い込みもあった。私がそうやっていろいろと思いを巡らせていると、彼は「いや、自殺するわけじゃないんだから」と、その「リングが死に場所」説をヤンワリと否定してみせたのだった。