炎の一筆入魂BACK NUMBER
広島を支えるコーチ陣の“3本の矢”。
打撃コーチ・迎祐一郎の愛と厳しさ。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/08/07 07:00
今季に入って再びバージョンアップしたかのように目覚ましい活躍を見せる丸(右)と、その指導をする迎コーチ。
今の広島にこそ必要な、指導における「厳しさ」。
東出コーチは迎コーチについて高く評価しながら、「矢面に立つ一番嫌な役目を担ってくれている」と笑う。その分け隔てない指導法は……厳しいのだ。
昨季は田中広輔や安部友裕がグラウンド上で叱責される場面も見られた。東出コーチは代弁する。
「なんで叱るのかと言ったら、選手のため。チームに影響を与えることもあるし、何より選手が試合に出るため、お金を稼ぐために叱っている。それが選手も分かっているから、今年は叱られる選手もいなくなった」
指導するのは、決して技術面だけではない。特に迎の厳しさは大事な要素で、若い選手が多い現在の広島には絶対に必要な指導とも言えるのだ。
本拠地での試合では、ナイターであれば8時間前には球場入りする。
連日行う若手の早出特打から選手に付きっきり。時には打撃投手として100球以上、選手に投げ込む日もある。
広島の選手の打撃映像だけでなく、相手投手の映像も毎試合細かくチェックする。
試合が終われば選手とその日の反省を行い、鈴木誠也らのスイングチェックにも付き合う。選手と一線を引く指導……と言いつつも、実は徹底的に選手に寄り添っているのである。
指導者として選手と真正面からぶつかってきたからこそ。
どこの世界でも、キャリア組とノンキャリア組という分け方はあるだろう。
野球で言えば、現役時代の実績から指導者でも差が生じることは当然のことであり、受け入れなければいけない現実なのだろう。指導者として、選手に対する説得力にも差が生じるかもしれない――では、その上でどうするか?
立場にあぐらをかかず、おごらず、そして逃げない。
迎コーチはそれを受け入れ、ぶれない芯を持って選手とぶつかってきた。努力し、真正面からぶつかっているからこそ、選手にも真っすぐ伝わるのかもしれない。
ノンキャリア組がキャリア組と同じ世界で対等に戦えるのは、ドラマの世界に限った話ではない。