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岩瀬仁紀が歩んだ苦難の950登板。
見栄とも娯楽とも無縁の野球人生。
posted2017/08/07 12:05
text by
伊藤哲也Tetsuya Ito
photograph by
Kyodo News
鉄腕左腕にまた新たな勲章が加わった。
8月4日の巨人戦。9回に守護神の田島慎二が同点に追いつかれ、なお2死一、二塁の危機。背番号「13」が緊張感を漂わせマウンドに向かった。阿部慎之助には右前打を許して満塁とされたが、村田修一を右飛に。
窮地を脱した瞬間、プロ野球歴代最多949登板で、米田哲也(元近鉄)と肩を並べた。
「記録はシーズンが終わってから振り返ればいい。今は記録への思いは特にない」
この言葉に嘘偽りはなかったのだろう。
その言葉通り、6日には早速登板を果たし、あっさりとプロ野球新記録の通算950試合登板を達成してしまった。
野球中心の生活で、他のことにはほとんど無頓着な男。
岩瀬仁紀にとっては、2月1日のキャンプインからシーズン最終戦が終わるまで、緊張の糸は張り詰めたまま、決して心底リラックスする瞬間などはない。
食事にでかけても下戸。たとえ敗戦投手になろうが酒で吹っ切ることができない。睡眠時間は最低8時間を確保。それを逆算しながら、プライベートも練習や試合も含めて翌日の行動を描いて就寝する。
息抜きといえば、好きな競馬や競艇をたまにたしなむ程度。それもシーズンオフのように決してのめりこむことはできないという。
「そりゃボクだって人間だし、またシーズンかと気分が滅入ることもあるけど、こればかりは逃げられない。シーズン中は何をやっても心底楽しめないし、もうあきらめているからね」
岩瀬はそう言って苦笑いを浮かべる。
野球中心の生活を余儀なくされ、それ以外のことはほぼ無頓着。洋服も基本的に着れればいいと、ブランド物にこだわることもない。同僚で仲が良かった1つ年下の川上憲伸が岩瀬の洋服を選び、無精ひげが口の周りを覆う。
野球に関係のないことに関して無神経になるのは、岩瀬に近い関係者に言わせればごく当たり前のことだ。