炎の一筆入魂BACK NUMBER
愛される以上に、本人が広島を……。
“ほぼ日本人”エルドレッドという男。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/06/23 15:00
右手首骨折や右膝半月板の手術など怪我や故障に泣かされたこともあったが、それでも、常に広島にとってかけがえのない選手であり続けた。
米国で“ビッグカントリー”、日本で“カンちゃん”。
元メジャーリーガーでさえ日本球界で成功するのは難しい。
たとえ米国で実績があっても、日本で成功できるとは限らない。異国の文化や習慣の違いもある。「日本を受け入れること」は日本で長くプレーする最低条件なのかもしれない。
“カントリー”の愛称はすでにチーム内だけでなく、ファンの間でも浸透している。
「力が強い田舎者」と似た意味として米国で呼ばれていた“ビッグカントリー”という愛称が省略されたもので、今では首脳陣から“カンちゃん”と呼ばれることもある。
チーム内では通訳を介さず会話する姿も珍しくない。
外野のポジショニングの確認も日本語。若い日本人選手が「先輩」と声をかけると、「オイッ」と返す。首脳陣から「元気?」と聞かれれば「カラゲンキ」と笑う。丸佳浩の「ほぼ日本人」という表現が実にしっくりくる。
とはいえ完全に日本に溶け込んでいるのは、エルドレッドの人間性によるところが大きい。
西村通訳は「歴代の外国人選手の中でも真面目さで言えば一番かもしれない。日本に馴染もうとする姿勢がとても強く感じられます」と微笑む。一発長打の武器とともに日本文化を丸ごと受けいれようとする器の大きさがあるからこそ、日本球界での成功がある。
小学生だった娘も「イタダキマス」「ヨッシャー!」。
奥さんと3人の娘の家族からのサポートも大きい。
昨年は長女が日本の小学校に通い、1年の多くを日本でともに過ごすことができた。今では食事の前には流暢な日本語で「イタダキマス」と手を合わせ、応援に駆け付ければスタンドでチャンステーマ、得点後に鳴る広島名物“宮島さん”のリズムに合わせてメガホンをたたく娘に育った。米国へ帰国してもエルドレッド家では「ヨッシャー!」や「ヨッコイショ」などと日本語が自然に飛び交うまでになったという。