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“エル・ロコ”ビエルサが変わった?
リールの監督就任騒動と、その後。
text by
クリストフ・ラルシェChristophe Larcher
photograph byBernard Papon
posted2017/06/19 11:00
監督就任の席でリールにおける“野望”を語り尽くしたビエルサ監督。とりあえず1年目の目標はリーグで5位以内という現実的なものだ。
まるでカンヌ映画祭のような監督就任記者会見。
マルセイユでは、メディアは彼の言葉を聞くまで監督就任からひと月半――8月7日まで待たねばならなかった。
それ以外では、ビエルサ節に大きな変化はない。
独特の抒情的な言い回しを駆使して、質問に直接答えようとはしない。「サッカーはひとつの産業には違いないが、同時に多大な情熱でもある」といった具合で、ボルヘス的かつマラドーナ的なもの言いは健在である。リールの会見も、まるでカンヌ映画祭でのニコール・キッドマンのフォトセッションのような終わり方だった。
ビエルサの傍らでは、リールのジェラール・ロペス会長が微笑みを浮かべながら佇んでいる。そのしばらく前にロペスは、ビエルサの就任に「衝撃の」という形容詞を用いることを拒絶していた。
ならば今回のビエルサの就任は、彼の中でどう捉えられているのだろうか?
リールは、マルセイユと同じ轍を踏もうとしているのか。
ビエルサは勝利に包まれた人間ではない。アルゼンチンを率いて金メダルを獲得した2004年アテネ五輪を別にすれば、獲得したタイトルは3度のアルゼンチンリーグ優勝のみで、それも20世紀に遡る。ただし、わずか1シーズンでチームを豹変させる能力を持ち、ペップ・グアルディオラやディエゴ・シメオネらと並び称されるカリスマ指導者でもある。独特のパフォーマンスと特異な言動で周囲に大きな刺激を与え、シーズン途中で辞任したマルセイユでも実際そうであった。
今年1月にリヨンを買収したジェラール・ロペスは、元マルセイユの会長ヴァンサン・ラブルンと同じ軌跡を辿ろうとしているのかもしれない。
'14年春までマルセイユ(OM/オランピック・ド・マルセイユ)の会長を務めたスペインとルクセンブルクの血を引くラブルンは、新しいシーズンに向けて何か大きな花火を打ち上げる必要に迫られていた。当時のマルセイユは2年間で5人の監督を交代し、前季は11位(18敗、総得点はわずか40)でシーズンを終えサポーターを失望させていた。しかも久々に出場したチャンピオンズリーグでは、グループリーグで1ポイントも獲得できず、不満は頂点に達しようとしていた。