“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
U-20ベネズエラの恐るべき目つき。
日本サッカーは「まだまだ甘い」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by7044/AFLO
posted2017/06/05 07:00
7月の試合で退任予定の内山監督は、ベネズエラ戦を「死闘だった」と表現。「選手たちを誇りに思います」とコメントした。
破綻寸前の国・ベネズエラのサッカー選手という意味。
「我々の活躍を国民が期待している。我々が結果を残すことで、少しでも明るいニュースを国民に届けられたら良いと思っている」
ベネズエラを率いるラファエル・ドゥダメル監督は試合後に、こうコメントした。
ベネズエラという国は今、深刻な政治的問題を抱えている。国内経済はハイパーインフレに陥り、首都カラカスの治安も悪化の一途を辿っている。さらに大統領派と反大統領派の政治的対立が激化し、日本代表に勝利した試合の翌日5月31日にも、カラカスで大統領の退陣を求めるデモ隊と治安部隊が衝突するなど、国内情勢は混乱を極めている。
まだ20歳になるかならないかという若きベネズエラ代表の選手たちは、サッカーで苦しむ母国に笑顔をもたらし、同時にここで成功を収めて、海外クラブへの移籍を絶対に実現するべく決死の覚悟でプレーしているのだ。
もちろん日本では、こうした社会的背景は望むべくもないし、平和で安全な国・日本として世界的にも胸を張って良いとは思う。だが、ことサッカーにおいては、国を背負い、自らに値札を貼って売り込んでいくほどの尋常ならざる「熱意」が、日頃のサッカーのトレーニングにおいて、絶大な効果をもたらすのも事実なのだ。
すべては彼らの「日常」にかかっているのだ。
この事実をしっかりと胸に刻んで欲しい。そして、その上でこの強度を忘れること無く、これからの「日常」を過ごしていって欲しいと願う。
U-20日本代表の選手達がこの4試合を通じて得たものは、この本物の疲労の中で真剣勝負ができたという貴重な経験と、「世界との差」に気付いたことだった。
この成果をどう未来へ繋げるか――この先、「世界との差」が精神的にも物理的にも大きな差に広がらないようにできるか否か。
すべては彼らのこれらの「日常」に懸かっている。