“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
U-20ベネズエラの恐るべき目つき。
日本サッカーは「まだまだ甘い」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by7044/AFLO
posted2017/06/05 07:00
7月の試合で退任予定の内山監督は、ベネズエラ戦を「死闘だった」と表現。「選手たちを誇りに思います」とコメントした。
最後まで質の高いプレーを続けられたベネズエラ。
確かにこの試合、日本守備陣の集中力は高く、攻撃陣も決定的なチャンスを何度か作っており、「勝てる試合」だったことは間違いない。だが、ベネズエラはそれ以上のプレーをしてきたのだ。
「日本は疲れてきたら推進力が無くなっていったけど、ベネズエラは得点に至るまでの推進力が、90分戦った後でも凄かった。そういうところの差が出た気がします」(市丸)
延長戦では、明らかにベネズエラにチャンスが増えた。そして、最終的にセットプレーとは言え、ベネズエラは決勝弾をものにしている。
この決勝点となったCKも、心身ともに疲れきっているはずの時間帯で彼らの頭脳がいかに明晰だったかを表している典型的なプレーだった。
1回目のコーナーキックで読まれていた、日本の動き。
決勝点を生んだ左CKの1つ前のプレーは、実は、ほぼ同じような左CKだった。
ベネズエラのキッカーのMFロナルド・ルセナが右手を上げてサインを送ると、その右足から放たれたボールがニアサイドに飛び込んだDFナウエル・フェラレーシの頭へ向かっていく。この時、ベネズエラの選手達はフェラレーシを先頭に計5人の選手がゴール前に飛び込んでいた。それに対し、マンツーマンで守っていた日本のDF陣も、そのまま張り付く形で全員がゴール前のスペースに飛び込んでいった。
ベネズエラの選手たちは、これを見逃さなかった。
そして再度CKになると、キッカーのルセナは両手を上げて別のサインを送っていた。それを見たゴール前の選手たちも、瞬時にルセナの意図を理解していた。
彼のキックが放たれた瞬間、フェラレーシは1本目と同じニアに飛び込み、他の2人もゴール前に向かった。しかし残る2人は、さっきと同様にゴールに向かうと思わせながら、瞬時に逆の方向、ゴールから離れるポジションへと動き出した。
ルセナのボールは1本目と同じフォームから放たれているように見えたが、ボールを右足アウトサイドで蹴るように変えたことで、1本目とは逆、ゴールから少し離れた弾道となり、MFヤンヘル・エレーラの頭にピタリと合った。
完全に逆を突かれたCB冨安健洋らは、エレーラのヘッドを邪魔することができず、そのままボールはゴールに吸い込まれた。
ベネズエラの選手たちは日本が見せた動きのパターンを見逃さず、瞬時に全員で攻め方を共有してゴールに結びつけたのだ。当然、ベネズエラの選手たちにも相当な疲労があったはずだが、この瞬間だけは頭をクリアにし、ゴールへの推進力を一気に上げたのだ。
裏を返せば、もし日本の選手がサインの変化や、1本目のCKでの守備パターンの隙に気付き、選手間で共有してもっと注意していれば防げた失点だった。