フランス・フットボール通信BACK NUMBER
クライフを変えたダウン症の若者。
その精神は、今も世界中で生き続ける。
text by
ティエリー・マルシャンThierry Marchand
photograph byDR
posted2017/04/13 17:00
スペイン・マルトレルに完成した「クライフ・コート」の全景。単なるスポーツ施設を超え、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」としても機能することを目指している。
クライフを変えた、ひとりのダウン症の若者との交流。
われわれがクライフコートやクライフアカデミー、アヤックスやバルサの育成組織に見いだすことができるこの精神は、1970年代終わりに彼が過ごしたアメリカで育まれたと言われている。
そこで彼はひとりのダウン症の若者ととても親密な関係になった。
誰もその若者と一緒にサッカーをやりたがらなかったが、クライフは彼にサッカーの基礎を教えたばかりか水泳の指導までしたのだった。アメリカを去る直前、クライフは彼が同年代の若者たちと初めてストリートサッカーに興じるのを目にして、涙をこらえることができなかったという。
この時の精神が、クライフ没後の一連の慈善活動を支えているのは間違いない。
今日、世界で6万人以上の子供たちが、クライフコートの人工芝の上でサッカーを楽しんでいる。そして200を超える大会が毎年開かれている。ただし、専門家や教育者、ボランティアなどによる大枠の管理は不可欠である。それが基金により発行される《ディプロム・クライフ(基金独自のコーチ資格)》である。
長男のジョルディは、先日、「クライフ・フットボール」の共同経営者に就任した。父親である創設者のヨハンについて、彼は最近ガーディアン紙にこう述べている。
「父は生粋のオランダ人で『自由に生きて自分の道を行け』と生前よく語っていた」
まるでクライフ自身が、死後もその歩みを止めていないかのように……。