スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
セビージャに訪れた敏腕SDとの別れ。
愛し、愛されすぎたモンチの今後。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarca Media/AFLO
posted2017/04/01 11:00
マンチェスター・シティで燻っていたナスリを蘇らせたモンチ。欧州きっての目利き能力を、他クラブが放っておくはずがない。
心臓ではなく、セビージャのエンブレムが脈打つ男。
先日、人口5千人ほどの小さな町のペーニャに招かれたモンチは、チャンピオンズリーグ敗退のショックに沈むセビジスタたちにこんなメッセージを送っていた。
「楽しんでほしい。若い世代は良い時代しか知らないが、上の世代は困難な時代を経験している。セビージャは今、歴史に残る偉大な成功を手にしている。一時のネガティブな結果に流されてはいけない。これは歴史的な出来事なんだ」
だが実際のところ、3度目の挑戦となったチャンピオンズリーグの決勝トーナメントでベスト8進出を逃したショックを誰よりも受けていたのは、他でもないモンチ自身だった。
キングス・パワー・スタジアムの横に停められたアウェーチームのチームバス。その最前列の席に座っていた彼は、テレビカメラが向けられるのも気にせず、真っ赤に腫れた両目を宙に漂わせていた。
選手時代から足掛け29年。愛するクラブに心血を注いできた生粋のセビジスタは、再びいちファンとしてセビージャを支える喜びを取り戻すべく、ラモン・サンチェス・ピスフアンの事務所を後にする。
「スポーツディレクターとしての日々が終わり、これからエモーショナルな日々が始まる。ソシオ番号8554、いちセビジスタとしてのモンチの人生がね。私の体は心臓ではなく、セビージャのエムブレムが脈を打っている。グラシアス」
今にもこぼれそうな涙を懸命にこらえながら、モンチが関係者への感謝の気持ちを綴った文面を丁寧に読み上げると、会見場は温かな拍手に包まれた。