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<マドリード・ダービー展望>
ジダンとシメオネ、愛すべき2人のアイコン。
posted2017/03/30 12:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Getty Images
3月上旬、ジネディーヌ・ジダンの大腿部を間近で目にした。
バスク地方の山あい、エイバルの小さなスタジアムの裏口でのことだ。収容数わずか6000人のスタジアムには、チームバスまで通じる、選手や監督専用の通路などという気の利いたものは、もちろんない。
試合後、ジダンはスタジアムの裏からバスへと続く、崩れかけたコンクリートの階段を上っていった。太い腿、その筋肉はまるで衰えていない。細身のスーツははち切れんばかりで、姿勢もアスリートのそれだ。ベテラン選手と言っても十分通用するだろう。彼よりも体型の崩れかけた現役選手など、英国あたりにはたくさんいる。
見た目だけじゃなく、技術も落ちていない。時々、選手にまじって、ロンド(ボール回し)や紅白戦に参加していて、びっくりするくらいのテクニックや身のこなしを披露してくれる。人気が出ないわけはない。
やがて階段を上りきったジダンがファンの前に姿をあらわした。盛大な歓声は、その日プレーしたどの選手へかけられたものよりも大きかった。
心が折れかけたシメオネを目にした時……。
ビセンテ・カルデロンに響く“チョロ”へのチャントは、愛に満ち溢れている。
ディエゴ・シメオネはアトレティコのサポーターにとってカリスマ的な存在だ。彼ほどファンを味方につけようとする監督はいない。ピッチに背を向け、スタンドに向かって手を叩く。スタジアムはひとつになる。チームのスタイル、熱と激しさが混ざりあうサッカーは、指揮官そのものだ。
それでも一度だけ、心が折れかけたシメオネを目にした。昨季最後の試合の会見でのこと、彼は覇気のない声を絞り出した。
「今後どうするか、考えなければ」
視線は一点を見つめていた。初めて目にした弱気なシメオネの姿。それはチャンピオンズリーグ決勝、敗れた相手はレアルだ。
動いたのは、普段はシメオネに鼓舞される側のサポーターだった。どこからともなく「チョロ、残ってくれ」との声があがり、それはキャンペーンになった。#choloquedateはSNSを席巻し、スタジアムに「残ってくれ、ここは君のホームじゃないか」という横断幕が掲げられた。それを目にしたのだろう。数週間後に現れたシメオネは、普段のやる気に満ち溢れていた。