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セビージャに訪れた敏腕SDとの別れ。
愛し、愛されすぎたモンチの今後。
posted2017/04/01 11:00
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Marca Media/AFLO
恐れていたその時が、とうとう訪れてしまった。
3月31日。モンチことラモン・ロドリゲス・ベルデホがホセ・カストロ会長と共に会見を行い、セビージャのスポーツディレクター職を退任することを発表した。
引く手あまたの敏腕SDにはセビージャとの契約が2020年まで残っており、契約解除には500万ユーロの違約金もかけられていた。だがクラブはこれまでの功績と本人の意向を尊重し、無償での契約解除を受け入れたという。カストロ会長は次のように説明している。
「モンチが違約金を払う必要はない。彼は自らの仕事によってこのような形での退団を勝ち取った。彼はもう十分すぎるほどの利益とタイトル、反響をクラブにもたらしてくれた」
21世紀以降、これほど成功したクラブは数少ない。
現役を引退して間もない2000年夏、モンチはトップチームの2部降格に伴い経営破綻の寸前に追い込まれていたセビージャを再建すべく、チーム強化の最高責任者としてフロントに入った。
豊富なスカウト網を駆使して無名の有望株をいち早く発掘し、市場価格が高騰したところで売却する。まるで株の売買で財を成していくトレーダーのように、次々と選手の売買で利益を生み出していく。モンチの手で、一時は電気代すら滞納していたクラブの財政は急速に潤っていった。
とはいえいくら選手の売買で利益を上げても、それでチームが勝てなくなってしまっては本末転倒である。モンチの凄さは、毎年のように数人の主力選手を失いながら、その穴埋めができる即戦力を絶え間なく、それも低コストで補強し続けることで、国内外で高い競争力を保ち続けてきたことにある。
その結果、セビージャはこの17シーズンにおいて選手の売買で1億5000万ユーロもの利益を上げながら、並行して16回のファイナルを戦い、2度のコパデルレイ、2度のUEFAカップ、3度のヨーロッパリーグなど計9タイトルを獲得してきた。21世紀以降にこれほどの成功を収めてきたクラブは、世界中を見渡しても数えるほどである。