スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
セビージャに訪れた敏腕SDとの別れ。
愛し、愛されすぎたモンチの今後。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarca Media/AFLO
posted2017/04/01 11:00
マンチェスター・シティで燻っていたナスリを蘇らせたモンチ。欧州きっての目利き能力を、他クラブが放っておくはずがない。
主力が去っても「モンチさえいれば大丈夫」。
選手が入れ替わり、監督スタッフが入れ替わり、会長の交代もあったこの17年間、常にセビージャの成功を支え続けてきたのがモンチだった。
誰がいなくなろうとも、モンチさえいれば大丈夫。オフに主力選手を引き抜かれるたび、セビジスタたちの間ではそんな言葉が交わされるほど、モンチはセビージャにとってなくてはならない存在だったのだ。
しかし、当の本人は愛するクラブの発展のために何年も身骨を砕き続ける中で、少しずつ精神的な限界を感じ始めていた。
昨季終盤、モンチは消化試合となった国内リーグのラスト3節を3連敗で終えたことに怒り心頭し、直後のヨーロッパリーグ優勝を心から喜べていない自分に気づいたという。
クラブ愛が強すぎるがゆえ、このままでは心のバランスが保てなくなってしまうかもしれない。家族と話し合った末、至ったのが「ここで一度止まるべき」という結論だった。
クラブに最も影響がないタイミングで、去る。
そのためモンチはシーズンの終了を待った上で退団の意思を伝えたのだが、既に新シーズンへ向けたチーム作りが始まっていたタイミングでの退団をクラブが認めることはなかった。
その後モンチは心機一転して仕事に没頭し、新監督と11人の新戦力を揃えてチームを一新。さらに1月にも3選手を補強する徹底ぶりにより、ホルヘ・サンパオリ率いるチームは国内リーグでは2強と共に首位を争い、チャンピオンズリーグでも史上3度目のグループリーグ突破を果たした。
しかし、その間もモンチの頭には常に退団の2文字があったという。失意のチャンピオンズリーグ敗退に続き、アトレティコ・マドリー戦の敗戦によりリーガの優勝争いからも実質的に脱落したこのタイミングで再びクラブに変わらぬ意思を伝えたのは、今ならチームへの影響が最小限に抑えられると考えたからだ。