スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
セビージャに訪れた敏腕SDとの別れ。
愛し、愛されすぎたモンチの今後。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarca Media/AFLO
posted2017/04/01 11:00
マンチェスター・シティで燻っていたナスリを蘇らせたモンチ。欧州きっての目利き能力を、他クラブが放っておくはずがない。
「ひとりの人間として彼の意志を尊重」
「理由は精神的な消耗だ。この29年間、高い要求に応え続けてきた。昨年5月にも退団を申し出たが、形とタイミングを誤った。その後も考えは変わらなかった。これは個人的な問題。私には変化が必要なんだ」
昨年に退団の意思を伝えた際には、長らく噂されてきたビッグクラブのオファーに心が傾いたのだと解釈した一部のファンから裏切り者扱いされもした。そのような見方も根強く残っているものの、会見で1つ1つの質問に丁寧に答える姿を見る限り、その言葉に嘘はないように感じられた。
そうでなければ、きっとクラブがこのような形で彼を送り出すこともなかっただろう。カストロ会長の言葉からも、これがいかに苦渋の決断だったかがにじみ出ていた。
「我々はモンチが残ってくれるよう手を尽くした。可能なことは全て、不可能なことまでもだ。市場価格を無視した、クラブの経済力を超越した金額も提示した。だが我々はプロとしてではなく、ひとりの人間として出て行く必要があった彼の意志を尊重しなければならなかった」
ローマのSD就任が断定的に報じられている今後についても、モンチは包み隠さず答えている。
「誰と何の契約も交わしてはいない。ローマが最も興味を示してくれていることは事実だ。ロンドンで話し合いの場を持ったこともね。この場を借りて、そのことを伝えていなかったことを会長に謝りたい。だが何も決めてはいない。プロジェクトの内容を聞いて、検討しているだけだ」
つまるところ、セビージャを愛しているのだ。
それが来季になるのか、もっと時間を空けてからになるかは分からない。だが彼が他のクラブで再び敏腕を振るうことは間違いないだろう。
ただし、その際にセビージャのスタッフを連れて行くことはない、とモンチは断言している。その理由は「全員にセビージャで続けてもらいたい。それがセビージャにとって最善のことだから」。
つまるところ、この男はとことんセビージャを愛しているのである。