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ベンゲルより、アーセナルが限界?
退任したら高確率でマンUの二の舞か。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2017/03/13 07:00

ベンゲルより、アーセナルが限界?退任したら高確率でマンUの二の舞か。<Number Web> photograph by AFLO

「どんなよいことにも、終わりがある ベンゲルよさらば」と書かれたプラカード。カリスマへの愛憎が溢れている。

過去12年で、タイトルはFA杯が3つだけ。

 近年のアーセナルには、別の「勲章」もある。ベンゲル政権の安定感だ。

 暫定監督も含めれば、過去12シーズンでユナイテッドとリバプールは5回、シティは7回、指揮官が変わっている。チェルシーに至っては11回で、毎シーズン監督の首がすげ替えられてきた計算になる。

 対するアーセナルで、監督交代が起きた回数は0。27年間にわたってユナイテッドを率いたアレックス・ファーガソンがいなくなった今、ベンゲルはチームの運営にまで深く関わる古典的な「マネージャー」として、孤高の光さえ放っている。

 もちろん、平均順位だけで全てを語ることはできない。勝負の世界では、タイトルを取ってこそ初めて評価されるからだ。

 プレミアの優勝回数で言えば、過去12年間でユナイテッドは5度、チェルシーは4度頂点に立っているし、近年はシティも躍進して2度トロフィーを手にした。逆にアーセナルはFAカップを3回制したにとどまる。

 CLの成績もしかり。同じ時期、ユナイテッドとチェルシーは1度ずつ欧州の頂点に立っている。リバプールはプレミアの平均順位こそ5.1位だが、代わりにイスタンブールで奇跡の逆転劇を演じた。しかしアーセナルはクラブ創設以来、未だにCLのタイトルと無縁であり続けている。

 こうして考えてくると、「ベンゲル限界論」の本質は、安定志向で現状維持を優先するか、リスクを覚悟の上で伸るか反るかの大勝負(監督交代)に出るかという、人生にも似たテーマであることがよくわかる。

 就任時、知名度の低さから「Arsene Who?(アーセンとは誰のこと?)」と揶揄されたベンゲル監督がアーセナルを再建したのは、合理的なアプローチに負うところが大きかった。

 シーズン中でも平気で深酒をし、試合前にたっぷり食事をしてゲップをしながらピッチに出て行く選手たちに、この種の悪癖を改めさせたのがベンゲルであることは、よく知られている。

 その一方で、世界中に張り巡らしたスカウト網を駆使して、ダイヤの原石を発掘。かつてのアーセナルがうまく機能していたのは、限られた予算の中で戦力強化を図りながら、頃合いを見計らって売りに出し、運営資金を捻出していく手法がうまくはまっていたからだ。

ベンゲル「そう、プレミアはあまりに変わりすぎた」

 しかしベンゲル流のアプローチは、もはや他クラブに対してアドバンテージにならない。アフリカや東欧から選手を発掘するのは、今ではどのクラブにとっても当たり前になったし、アブラモビッチがチェルシーを買収した頃を境に、プレミアのマネーゲームは一気に激化。算盤を弾きながら常識的なクラブ運営をしていくだけでは、ライバルチームに対抗できなくなった。

 奇しくもこの転換期は、アーセナルが無敗優勝を飾り、最後のリーグ戴冠を果たした時期と重なる。2004年は、ベンゲルイズムが大輪の花を咲かせた、最後の瞬間だったと言ってもいい。

 その事実は、本人も認めている。ロンドン郊外のクラブハウスでインタビューした際、ベンゲル監督は懐かしそうな、それでいて少し寂しそうな目で素直に頷いた。

「そう、プレミアはあまりに変わりすぎた。どのチームも、かつては考えられないような予算を注ぎ込み、目の色を変えてタイトルを狙うようになった。

 無敗優勝はそれ自体が偉業だし、サッカー界広しといえども、成し遂げたチームは指折り数えるほどしかない。ましてや現在のマネーゲームを考えれば、この先、同じ偉業を達成できるチームは、二度とプレミアに現れないだろう。アーセナルのように、健全な運営をしているクラブにとっては、なおさら難しいと思う」

【次ページ】 人間的に真っ当すぎることがネックに?

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