マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
なぜ中島や鈴木より今宮健太なのか。
4年連続GGは本能と基本の合わせ技。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/12/12 07:00
フィールディングを見ているだけで楽しい選手、というのはそういない。そして今宮健太の守備は、お金が取れる守備だ。
ノッカーが今宮の横をなんとか抜こうとするが。
「うちの練習はアップがいちばんきついんです……。投げる前にノックがあるんで、ちょっと待っててもらえますか?」
グラウンドのそこここに、アップで終わってしまった“シカバネ”が累々と横たわる中を、パンッ、パンッ、パンッとバネの効いたダッシュで遊撃のポジションに走っていく後ろ姿を見ながら、「小さな巨人だな……」とあきれたようにつぶやいたものだ。
ノッカーが、なんとか今宮健太の横を抜こうとしていた。そういうふうにしか、見えなかった。
一見アクロバットに見えて、合理的な手段を選ぶ。
三遊間に、二遊間に、痛烈な打球が打ち込まれる。しかし、打球がそこへ飛んでいくたびに、そこにもう彼がいて、ボールは今宮健太のグラブに吸収されていく。
ならば前に高いバウンドならどうだ!
ノッカーが思い切り叩きつけた打球を、今宮健太は下りてくるまで待ってなどいない。みずから飛び上がり、バウンドの頂点付近で右手でつかむと、そこから投げ下ろして一塁手に送る。
二塁ベースまで打球を追って、さすがに体勢を崩すと、とっさに二塁手にボールをトスして“代わり”を頼む。
一見、一か八かのアクロバチックなプレーに見えて、実はほかに一塁で刺す手はない。考えてみれば、合理的で唯一無二の手段をさりげなく繰り出す“要領”の良さには、文句なしに舌を巻いたものだ。
「これから投げます。はい、だいじょうぶです!」
顔じゅうを透き通った汗のつぶでいっぱいにしながら、ちょっと休んだら……とこっちの心配を振り払った笑顔を今も忘れられない。