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「ガムシャラさ」によりかからない。
状況判断こそが久保建英の特別さ。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/11/07 17:30
フィジカルは年齢と共に着実に向上する。久保建英が、目先ではなく長期的なスパンで成長する環境に恵まれることを願わずにはいられない。
ガムシャラさで状況判断のミスを隠さない。
様々な要因が複合的に絡み合い、久保は難しい時間を過ごした。
だからといって、何もしなかったわけではない。
かくも注目を浴びるシチュエーションに立たされたら、一般的な若手選手ならガムシャラさを武器にピッチを駆けまわるはずである。とにかく自分の良さを出そうとするはずだ。久保に似たタイプのアタッカーから、ドリブルで仕掛けたり、スルーパスを狙ったり、強引にでもシュートを打ったりする。
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若い選手や経験の少ない選手はガムシャラにやっていいし、そうしたプレーに清々しさと将来性を感じる風土が、日本のスポーツ界にはある。状況判断が適切でなかったとしても、自分らしさを出そうとする姿勢は評価されるものだ。
しかし久保は違うのだ。ガムシャラさが隠す状況判断のミスが、彼にはない。
ワンタッチでさばくべきシーンは、そのとおりに味方選手へボールをあずけた。スルーパスを狙っていいシーンでは、相手守備陣にとって危険なスペースへボールを通そうとした。
ペナルティエリア内でパスを受けたら、ドリブルで仕掛けた。身体をねじ込むようにタテへ突き進み、スタンドを沸かせた。
24歳の選手がもっとも若い長野パルセイロに対して、15歳の自分ができることとできないことを、久保はきっちりと整理していたのである。ガムシャラさに寄りかからないプレーこそ、この少年が見せた「違い」だったのだ。
会見でも「ガムシャラ」とは一度も言わなかった。
J3デビューの意味を問われた久保は、「経験のひとつとして、高いレベルを経験できました。どれぐらい差があるのかというのが分かったので、いい機会になりました。今日は最初、スピードに全然ついていけなかったんですけど、自分もパススピードやドリブルのスピードを上げることで、このレベルでもそん色なくやっていけるようにしたいです」
長野パルセイロ戦後の取材対応で、久保は「ガムシャラ」という単語を一度も使わなかった。単なる偶然ではない気がしてならない。経験によっても磨かれていく状況判断というスキルを、この15歳はすでに身に付けている。