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交際0日で結婚→柔道ブラジル代表コーチ中に妊娠「夫と子供たちが協力してくれたおかげ」“問題児”を五輪金メダリストに育てた42歳女性のドラマ
posted2025/01/30 06:00

2018年、ブラジル柔道コーチ時代の藤井裕子さん。その人生は波乱万丈だった
text by

沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
SEBASTIAN SMITH,AFP/JIJI PRESS
海外生活17年、海外での柔道プロコーチ歴14年、そのうちブラジルだけで12年――。
育児に最大限の協力をしてくれた夫、ブラジル生まれの1男2女と共に年初に日本へ帰国することを決意した女性柔道家は、真夏のリオで、穏やかで満ち足りた表情を浮かべていた。
24歳で引退した藤井さんが歩んだ海外指導者の道
藤井裕子さん、42歳。彼女のこれまでの人生を振り返ると、あまりにドラマチックだ。愛知県大府市出身で、5歳から地元の名門大石道場で練習に明け暮れた。中学、高校で全国大会で上位に食い込み、年齢別の日本代表にも選ばれた。将来、日本代表として五輪に出場し、メダルを獲得する夢を抱いた。
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「猛練習をして技術を高めるのは大好きで、周囲の人から“練習の虫”と呼ばれました。でも、次第に同年代のトップ選手に勝てなくなった。今にして思えば、良い練習ができたことに満足してしまい、勝負への執念が足りなかった」
選手生活を続けながら広島大学教育学部、さらには修士課程で学んだが、良い成績が残せなかった。大学院修了後、24歳にして現役引退。「英語を習得しようと考えて」2007年、ロンドン西方のバース大学へ留学した。
ここから、藤井さんしか経験しえない、長い海外生活が始まった。
大学で学びながら、柔道部で指導を始めた。基本を大切にし、選手の気持ちに寄り添う指導方法が評価され、2010年、英国代表の技術コーチに抜擢されると、2012年ロンドン五輪で英国は12年ぶりのメダルを獲得した。
この指導がブラジルの柔道指導者の目に留まり、2013年、ブラジル男女代表の技術コーチとして招かれた。日本の22倍半の面積を持つ広大なブラジル各地を巡回し、選手と指導者養成に奮闘。日本の伝統的な指導法を反面教師として、頭ごなしの命令ではなく練習の意味を丁寧に説明し、選手の自主性を育む指導方法が高く評価され、「センセイ・ユーコ」と慕われた。
“交際0日婚”のち1男2女を出産…夫もサポート
2016年のリオ五輪で、愛弟子ラファエラ・シウバが女子57kg級で金メダルを獲得。嬉し涙を流した。2年後にはブラジル五輪委員会の会長から「女性には男子トップ選手の指導はできない、という常識を覆してほしい」と口説かれ、35歳でブラジル男子代表監督に就任した。
〈若い女性が強豪国の男子代表監督を務めるのは前代未聞。ジェンダーの壁を崩した〉
国際柔道連盟の公式サイトでこう紹介され、欧米有力メディアでも大きく取り上げられた。