錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
挑戦者の立場に徹した錦織圭は、強い!
マレーとの対戦が絶対面白くなる理由。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/09/07 15:30
「格上選手に勝つために、そろそろギアを上げていきたい」と今大会でコメントしている錦織。体調も万全のようなので、大いに期待したい。
数多くあった、ベスト10プレイヤーとの激闘。
ただ、実際はフェレールが最初ではない。
'08年にデルレイビーチでのツアー初優勝を果たした翌週、サンノゼに移動して注目の中で戦ったアンディ・ロディックとの2回戦が初の対トップ10プレーヤーとの試合だ。
'03年から'04年にかけてわずか2カ月ほどだが世界1位に君臨していたロディックは、当時世界6位だった。
「え、ロディック? それは覚えてないです……」
2-6、4-6のストレート負けだった。ロディックは前の週に同国の友人ジェームズ・ブレーク(当時12位)を破った18歳に対し、キツい態度をとった。ネット際での元王者の威嚇は「ロディックを本気にさせた」などと当時報じられたものだが、あの試合を忘れたというのはテニスプレーヤー向きのいい性格だ。
さらに、4月に再び対戦することになったブレークが8位に上がっていたことは忘れてもしかたがないが、6月にウィンブルドンの前哨戦で対戦したラファエル・ナダル(当時2位)のことも記憶から飛んでいるようだ。対ナダルは1セットを奪う接戦だったから、かなりいい手応えを抱いたはずだが、それも忘却の彼方へ追いやり(言えば思い出すに違いないのだが)、今なおしっかりと記憶に焼き付けているのは、6-4、6-4、3-6、2-6、7-5のフルセットで金星を得た、あのフェレール戦なのだ。
自身の18歳の姿に感心する――そんな経験はトップの誰もが持っているのかもしれない。
錦織が挑戦者として戦える機会は減っているが……。
ランキングが上がり、実績を重ねてきた錦織が、あのような立場で挑める試合は減った。しかし、先日、「歴史的」な試合で対戦したカルロビッチは、格下でありながら、錦織が挑戦者の立場で臨める絶大な武器を持っていた。
ツアー随一の長身から叩き込まれる超ビッグサーブだ。
明確に敵を定めて集中力を高め、結局ストレートセットで勝った錦織は、試合後、「自分のベストマッチの1つ」とオンコートのインタビューで語った。