錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
挑戦者の立場に徹した錦織圭は、強い!
マレーとの対戦が絶対面白くなる理由。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/09/07 15:30
「格上選手に勝つために、そろそろギアを上げていきたい」と今大会でコメントしている錦織。体調も万全のようなので、大いに期待したい。
過剰に煽るアメリカのメディアに、錦織も苦笑い。
といっても、リニューアルされて2018年には使用再開されるのだし、仮に「最後」を強調するなら錦織の試合のあとに組まれていたミックスダブルスのほうがふさわしいような気もする。しかしシュライバーは、
「ビヨン・ボルグに始まり、ケイ・ニシコリで幕を下ろします!」とさらに煽る。
ボルグと特別な関係でもない錦織はちょっと困ったような笑顔を見せたが、時にやたらとオーバーなメディアへの対応には慣れているらしく、「最後の試合に勝つことができて、それも自分のいいテニスで締めくくれて良かった」と澱みなく語った。
しかし、それから約1時間後の日本語の記者会見では、スタジアムに何か思い入れがあるかと聞かれると俯き、本音を漏らした。
「いやあ……まったくないですね……」
本当は錦織にとっても意義深い、このコート。
ご存知の方も多いだろうが、ルイ・アームストロングとは20世紀を代表するジャズミュージシャン。テニスと無関係の人物の名前がなぜ命名されたかというと、このスタジアムはもともとニューヨーク万博の際に多目的用に建設されたもので、以後コンサートホールとして使用されていたからだ。
ニューヨークに縁が深かったアームストロングの死から2年後の1973年、その功績を称えて、そのコンサートホールの名前として命名されたという。のちに、その万博跡地が全米オープン会場として生まれ変わり、ホールはテニススタジアムに改修された。
さすがに錦織がそんな歴史を知っているとは思えない。しかし、「思い入れがない」ことはなく、このスタジアムには思い出深い一戦を本当は持っている。
'08年、18歳での初出場でベスト16入りした快進撃、その3回戦で当時世界4位のダビド・フェレールを破った試合はこのスタジアムで行なわれた。
しかも数日前、2回戦のあとの会見で錦織はその試合について話をしたばかりだった。20歳のカレン・カチャノフを4セットで退けた試合だったのだが、そのカチャノフにとって錦織が初めて対戦したトップ10プレーヤーだったため、錦織自身の初めてのトップ10プレーヤーとの対戦の思い出について聞くと、「18のときここで対戦したフェレールだったと思いますけど……」と言って話し出したのだ。
「あのときの映像は、昔はよく見てたんですけど、よくこんなプレーできるなと思うところがありました。精神面とか足りないところはありますけど、思い切ったプレー、爆発力が若いときにはある」