マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
才能溢れるがゆえに感じた“危惧”。
一人歩きする「フルスイング」。
posted2016/08/23 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
“フルスイング”という言葉がひとり歩きしている。
流行しているという言い方にしようかとも思ったが、そんな軽い表現では私が感じた“危機感”を伝えられないと考え、あえて少々強い表現にすることにした。
フルスイング。
耳あたりの良い、いかにもすがすがしく聞こえる野球用語であるが、本当の意味を理解せずにきれいな言葉づらだけを捉えると、まさに「諸刃の剣」になりかねない危険な要素を含んだ言葉でもある。それを痛烈に思い知らされる場面に、この夏の甲子園の現場で遭遇した。
常葉学園菊川高(静岡)vs.秀岳館高(熊本)。
この夏予選のチーム打率、常葉学園菊川.410、秀岳館.405。
この夏予選の平均得点、常葉学園菊川10.4点、秀岳館9.6点。
ともに激戦の予選を、互角と言える破壊力の強打線で勝ち進んで甲子園にやってきた両チームの対戦になった。
快速リードオフマンの言葉に感じたいやな予感。
常葉学園菊川には、高校通算48弾、予選でも3ホーマーを放った快足のリードオフマン・栗原健中堅手がいた。
試合前の囲み取材でも、彼のまわりを多くの記者たちがとり囲んだ。
去年の今ごろまではただ力任せに振り回すだけのバッターだったのが、ボールを長く見るように指導されてから自分は変われた。
そう、うれしそうに栗原選手が語ってくれる。
「初球からフルスイングできるかどうかが自分のバロメーター。来た球を振るだけです、高校野球の相手はほとんど初見なんで。ビデオがあっても見ませんね。対応能力はあると思ってるんで」
威勢のよい話が続く。
情報が入ってると、逆に反応が遅れるとか……?
何もわかっていない、知ったかぶりの質問者にそんなふうにあおられると、
「はい、そうですね。野生っていうんですか……とにかく鋭く反応して、強く振ることだけ考えてるんで!」
ちょっと違うんじゃないかな。栗原選手の“今日”が苦しい闘いにならなければよいが……。
いやな予感がしていた。