野球善哉BACK NUMBER
甲子園の投手起用を改めて考える。
決勝は、全試合先発のエース対決。
posted2016/08/22 11:50
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
あれから10年が経った。
駒大苫小牧と早稲田実業による、決勝戦再試合のことだ。
2日間に及んだ2人の投手の投げ合いは、彼らのその後のライバルストーリーを予感させ、多くの感動を呼んだが、一方で目を背けてはいけない現実もみえてきた。
2006年の大会で優勝投手となった早実の斎藤佑樹(日本ハム)は、7試合に登板、69イニング948球を投げた。優勝するために投げ切った姿は見事だったが、その後、斎藤が「あの時」ほどのパフォーマンスを見せたことはない。駒大苫小牧・田中将大(ヤンキース)もメジャーに移籍した年、右ひじ靭帯の部分断裂を患った。
果たして、この10年で日本の野球界はあの激闘から何を学んだのだろうか。
第98回全国高校野球選手権大会決勝戦は、作新学院が7-1で北海を下し、54年ぶりの頂点に立った。
奇しくも決勝の先発マウンドには、大会を通してすべての試合に先発してきた2人の右腕が立った。昨今は複数投手制を敷くチームも増えたが、準決勝の4イニングを回避しただけの作新学院のエース・今井達也と、決勝戦まで全試合完投の北海・大西健斗の投げ合いで今年の頂点は争われた。
北海のエース大西は5試合全てに先発した。
とはいえ、起用には必ず理由がある。
今大会は近年にないほど好投手が集まったが、勝ち進めば連戦となることは自明の状況で、指揮官たちはどのようにして将来が嘱望された好投手たちを守り、かつ勝利をつかもうとしたのだろうか。
「勇気と決断が必要だったと思います」
そう語ったのは準優勝した北海の指揮官・平川敦だった。
平川は初戦から決勝までの5試合、すべてにエースの大西を先発させた。決勝戦は4回途中に3点を失ったところで2番手の多間隼介にスイッチしたが、大西がそれまでの連投で疲労困憊だったのは否めない。
4回途中から登板した2年生の多間は、この決勝戦が甲子園初登板だった。地区大会からの登板間隔などを考慮しても、起用法に検討の余地があったのではないだろうか。多間はこの日6回を2失点と好投した力があり、彼を生かす方法があったように思う。